医師は、遺灰は必ず遺族に返すことを保証し、担当者が直接相談に訪問することになると答えた。
同日夕方、家の玄関の前に、迷彩服を着た火神山医院の軍医・趙鵬南さんが背筋を伸ばして立っているのを見て、蔡雅卿さんは、「献体をするという決定が、間もなく現実になるのだ」と悟った。
趙さんは、蔡雅卿さんの質問に、「通常は献体提供者の臓器を他の人の命を救うために移植する。しかし、今回は異なり、ウイルス感染症で亡くなった人の遺体は医学研究に使われる」と、今回の献体について詳しく説明した。
中国科学院の院士で陸軍軍医大学の卞修武教授が率いる病理診断・研究チームは、火神山医院で、世界で最も多くの新型コロナウイルス感染による死者の検死を展開し、その研究結果を基に、国の新型コロナウイルス診療ガイドラインが整備された。
献体者たちはその業務をすでに物言わぬ身体で下支えした。今月5日の時点で、同チームが武漢で行った検死、穿刺解剖は36件に達した。うち、火神山医院の患者は蔡さんを含む10体だ。
火神山医院医務部の張宏雁副部長は取材に対して、「これは医師と患者が心を一つにして初めて成し遂げることができた偉大な業務だ。皆が示した大きな愛、自己犠牲的精神を、心に銘記しなければならない」と語った。
同意書に拇印、署名した蔡雅卿さんは、「全身」を提供することにした。それは、父親の遺体全てを火神山医院に提供することを意味する。
検死用の陰圧室で献体された遺体に一礼する研究チーム(画像は火神山医院が提供)。
蔡雅卿さんは、「署名する時は、心の中で、こうすることで母親にはよくなってもらう助けになることを願っていた。父親の遺体を研究に使ってもらうことで、この病気についてはっきりとしたことを知り、たいへんな思いをしている患者に1日も早く回復してもらいたかった。一瞬にして、両親を失いたくはなかった。少なくとも母親がまだいると思っていた」と振り返る。
母親はまだ入院しているものの、予断を許さない状況からは脱したという。蔡雅卿さんは、医師からのビデオ通話で、母親について、「ベッドから起き上がることはできないが、手の握力が少し戻った。これは良い兆候だ」と伝えられた。
3月25日、蔡雅卿さんは、一人で葬儀場に行き、父親の遺灰を引き取った。父親のお墓の前で、「あまりに突然すぎる。まだやり残したことがたくさんあり、話したいこともたくさんあった。それをする時間がなかった。いろんなことで父親を心配させてばかりだった」と悔やむ思いを語った。
趙鵬南医師が蔡雅卿さんに送った感謝状には、「武漢火神山医院」の印が押されている。
父親を埋葬した後、蔡雅卿さんは、両親の部屋のベッドのシーツを洗い、ベッドを整え、定期的に掃除し、母親の帰りを待っている。(編集KN)
「人民網日本語版」2020年4月20日