「萌え」は単なる好きや趣味の問題ではなく、生産力でもある。携帯電話のケースからお菓子の包み紙まで、おもちゃやぬいぐるみから「猫爪グラス」まで、「萌え経済」がひっそりと台頭し、新たな経済の業態の1つになっている。
「萌え文化」から生まれた「萌え経済」
「萌え経済」は一連の萌え商品から派生した経済行為だ。メーカーは売り上げを伸ばすため、漫画・アニメのキャラクターをパッケージに印刷して、消費者の購買意欲をそそる。
「ピカチュウはすごく萌える。テレビ・映画でみる性格もすごく可愛いし、一日中働いて家に帰ってピカチュウをみると心が満たされる」。消費者からこのような声が聞こえる。データによると、過去20数年間に、ピカチュウを代表とするポケモンシリーズの知的財産権の所有者は、グッズの販売やライセンスビジネスなどで、累計900億ドル(1ドルは約103.4円)以上の利益を得ており、映画・テレビ・漫画・アニメ・ゲーム類のキャラクターのトップに立っているという。小さなピカチュウがこれほどの大金を稼ぐ原因を考えると、ピカチュウの背後にある「萌え文化」とそこから派生した「萌え経済」にたどり着く。
日本の「萌え経済」が世界を席巻
「萌え経済」は「萌え文化」から派生したものだ。一般的に、「萌え文化」は日本のアニメ・漫画に起源し、徐々に都市文化のトレンドになったと考えられている。
新型コロナウイルス感染症が発生した2020年には、各業界が打撃を受けたが、漫画、アニメ、ゲームを土台とする日本のキャラクター市場の規模は2兆5千億円に迫り、その大部分が知財権のもたらした利益(キャラクターのライセンス、ブランドとのコラボ、リメイク)とグッズ化(周辺グッズ)による利益だった。
日本のアニメ・漫画・ゲーム産業(ACG産業)は「老いも若きも楽しめるもの」とされている。80歳の高齢者が漫画・アニメを見たくてネット通販をマスターし、携帯電話ゲームで遊ぶ人の3分の2が中高年だ。こうしたことから、日本の高齢者の間でキャラクター産業がどれほど受け入れられているかがわかる。日本の1千万人を超えるオタクのACG文化への傾倒ぶりをみると、文字通り「全身全霊を傾けて」おり、新しいキャラクター、プラモデル、フィギュアのためなら、喜んで高額の時間的コストや経済的コストを支払う。
日本のキャラクター産業の市場規模の大きさは、国民全体の所得水準の高さと大いに関係がある。第二次世界大戦後の経済高度成長とともに、日本は先進国の仲間入りを果たし、国民の平均所得は増加し、消費もこれにともなってモデル転換を果たした。1970年代に、日本社会の消費は大衆的消費から個性を重視する消費へと変化し、多様化、高級化といったトレンドが生まれた。このようなトレンドの中、「かっこいい」、「可愛い」、「萌える」といった記号や要素を備えたアニメ、漫画、ゲームなどの産業が人気を集めた。人口の多い日本の高齢者は「富裕」であることがよく知られており、60代の一人あたり平均貯蓄額は1300万円を超える。資産も余暇もある高齢者は、「趣味の消費」に熱心で、キャラクター産業の繁栄を後押しする上で重要な役割を演じている。
ACG産業は日本国民の中で絶えずファンを増やし、市場のパイは拡大を続け、ここから日本の二次元文化の発展がうかがえる。世界の中でも、日本の二次元文化には強い動員力がある。今や、インターネットのプラットフォームを利用して、「萌え文化」に関連した消費ブームが世界中を席巻している。
「萌え経済」はなぜ人気がある?
「萌え経済」はなぜ人気があるのだろうか。まず、萌えるもの自体にそれぞれの特徴と魅力があり、現代人の審美眼や嗜好に迎合していることだ。「萌え」を主な要素としたスタンプ、至る所にある画像を組み込んだユニークなスタンプが特に人気だ。次に、萌えるものが感情面での満足感を与えてくれることだ。人々は気持ちを萌えるものに託してそこから必要な慰めを得ており、「萌え文化」は可愛らしく、心を安らがせる文化として、現実の暮らしの中で感じるストレスを軽減する「安全弁」になっている。
中国科学院大学の張増一教授(報道・コミュニケーション学)は、「『萌え文化』が急速に広がり発展した重要な原因の1つは、人々、特に若い人の心理的・感情的な訴求を満たしたことだ。そのため『萌え経済』は消費者の感情的な訴求の満足に基づいた新たなマーケティングスタイルであり、そしてニューメディアの急速な発展も『萌え経済』を後押しした」と述べた。
「萌え経済」が消費牽引の重要な力に
この数年間で、「萌え経済」は急速に発展し、消費を牽引する重要な力になった。
19年の夏、ユニクロと米国のデザイナーのKAWS(カウズ)がコラボレーションした「KAWS:SUMMER」シリーズのTシャツが、ネットで発売されると瞬く間に人気商品になり、実店舗にも熱狂的なファンが押しかけて争奪戦が繰り広げられた。
同じ19年、スターバックス中国店舗でサクラピンクが華やかな「猫爪グラス」を発売すると、高額であるにもかかわらず、KAWSと同じように若者が争って買い求めた。
アニメのペッパピッグは16年に11億ドルの小売売上高を達成し、日本・熊本県のPRキャラクターのくまモンは11-13年に68億元の経済効果を生んだ。
中国の故宮もここ数年で「萌える」ようになり、「萌え経済」の重要な一員になった。1年間で10億元(1元は約16.0円)を稼ぎ出す故宮の「萌えドール」にしても、故宮の伝統的な文化財・モチーフを素材に創作されたシリーズのスタンプにしても、まさに「萌え文化」の力を借りて、600歳の故宮をますます若返らせ、ファッショナブルで親しみやすいものにしている。
可愛いことにお金を払う「萌え経済」はどこまで発展?
業界関係者は、「萌えることをビジネスにする道を歩み、『萌え経済』を深く掘り下げるために、できることがたくさんある」と指摘する。それでは「萌え」をめぐるビジネスをどうしたらさらに発展させることができるだろうか。
張氏は、「業者と企業は『萌え』をめぐるビジネスと体験型消費を結びつけ、消費者との双方向交流を重視し、顧客の参加を呼び込むとよい。特にニューメディアを通じてエンターテインメント化したマーケティングを展開し、顧客がマーケティングの過程に主体的に参加するようにするとよい」とアドバイスした。
張氏によると、「消費者と商品の間で気持ちが通い合うと、消費者はマーケティング活動に反発を感じなくなるだけでなく、逆に極めて強い熱意をもって参加し、商品を伝えようという気持ちになる。この状態が長く続くと、消費者の萌えるものに対するロイヤリティーが積み上がり、顧客ロイヤリティが増大する。業者もこのチャンスを利用して商品のブランド文化を育成し、消費者を集めて、一種のコミュニティへの帰属感を生み出させるようにし、さらには商品のPR・消費へ主体的に取り組むようにさせるとよい」という。
「萌え経済」の中で、ある業界関係者が最も期待するのはアニメ・漫画の発展のポテンシャルだ。同関係者は、「アニメ・漫画はクリエイティブ産業の中で極めて創造力に富んだ、新時代の消費の審美眼や嗜好に非常に密着した新興のクリエイティブ産業だ」と指摘した。
同関係者は続けて、「クリエイティブ産業やデジタルクリエイティブ産業の最もコアな資産はやはり知的財産権であり、アニメ・漫画産業は典型的な知財権創造型の産業だ。アニメ・漫画は生み出したイメージであれ、その世界観に基づいて語られるストーリーであれ、実際にはすべてが最も典型的な知財権だ。アニメ・漫画産業は知財権をめぐって、長い産業チェーンを形成することができる。すべてのクリエイティブ産業の中で、関連グッズの開発が最も上手に行われているのがアニメ・漫画産業だ。そこには非常に明確な知財権があり、周辺グッズの製造や派生商品の開発が相対的に最も成熟し、最も円滑に行われている」と述べた。
また張氏は、「商品がちょっと萌えるだけでは物足りない。商品の品質こそ生命線であることをはっきり認識しなければならない。心を込めて商品を作ってこそ、長く人気を保っていける。品質で努力しなければ、萌えるビジネスが本末転倒なことになってしまう」と注意を促した。(人民網日本語版論説員)
>>>丸わかり!中国キーワード
「人民網日本語版」2021年1月22日