中国の国有企業、中国化工集団がイタリアのタイヤ大手ピレリの買収を決めた。巨費を投じてブランド力と技術力を手に入れ、一気に世界競争の主役に躍り出る戦略だ。2000年代以降、本格化した中国企業の「走出去(海外に打って出る)」は新たな局面に入った。
F1自動車レースに向けて、ピレリ製のタイヤを点検する整備士(2014年、マレーシアのクアラルンプール郊外)=ロイター
「世界一流企業を生み出す」。中国化工が9200億円の大型買収に踏み切った背景には、こう強く提唱する中国の習近平指導部の意向が強く働いた。傘下に風神輪胎などタイヤ会社を抱えるものの主要市場は母国の中国ぐらいだ。海外では知名度が低く劣勢だった。
先進国で高い知名度を持つピレリがグループに加われば、高性能タイヤなど高付加価値製品の販売拡大が期待できる。新興国に打って出ていく上でも、世界的な自動車レース「F1」で実績を持つピレリのブランド力は強力な武器となる。
中国化工には国の信用力という後ろ盾もある。買収資金の費用負担は大きいが、国有企業へは国有銀行が低金利で資金を貸し出すとされる。公募や起債を通じ、民営企業などに比べて有利な条件で資金調達もできる。
一方、ピレリにとっては規模拡大が喫緊の課題だった。中国化工による買収でピレリのトラック・商用タイヤ事業は中国化工の傘下企業と統合する見込みだ。生産量を倍増させ価格競争力を追求する構え。販売面でも共同で中国を開拓し、東南アジアやアフリカ、南米の新興国への進出も加速する。原材料調達でも協力するとみられる。
日本でも知名度の高いピレリは規模の面では欧州のライバル、仏ミシュランや独コンチネンタルに劣る。14年12月期の売上高が60億ユーロ(約7800億円)。新興市場の比率は5割を超えるが、全体の売上高ではミシュランに3倍、コンチネンタル(ゴム事業)にも2倍の差をつけられていた。
打開に向け、昨年にはロシア国営石油会社のロスネフチから間接出資を受け入れた。「新興市場で勝つ企業になる」とマルコ・トロンケッティ・プロベーラ最高経営責任者(CEO)は意欲を語った。欧州ではドイツ、英国に次ぐ自動車市場に育ったロシアをテコに追い上げる計画だった。
だが、米欧のロシア制裁でロシアの新車販売が急減し、ピレリには大きな誤算になった。しかも、近年は欧州市場に韓国勢などが攻勢をかけ競争環境は厳しい。業界では燃費向上につながる技術開発や運転助言サービスまで競争軸が広がり資金も必要だ。ピレリは中国化工の財務面での支援も受け巻き返しを図る。
▼中国化工集団 旧化学工業省傘下の国有企業数社を再編合併し、2004年に設立した大型国有企業。化学工業原料、ゴム、プラスチック、肥料など幅広く手がける。13年12月期の売上高は2440億元で、従業員数は14万人。アジアやアフリカ、東欧などへ積極進出している。