1960~80年代に全国のハンセン病療養所で入所者の姿を撮影し、97年に亡くなった写真家、趙根在(ちょう・ぐんじぇ)さんの作品展「この人たちに光を」が東京都東村山市の国立ハンセン病資料館で開かれている。96年の「らい予防法」廃止以前に療養所内の様子を収めた写真は少なく、同館は「入所者の生活がわかる貴重な作品ばかり」と話している。
展示されているのは、病棟のベッドで寝ている夫に妻がやかんで水を飲ませる様子や、日常の散歩の風景、両手が不自由なため口にペンをくわえて文章を書く姿などの写真81点。療養所の外にいる家族や親戚にも差別が及ぶのを恐れ、当時は撮影に抵抗がある入所者がほとんどだった。趙さんは寝食を共にし、信頼関係を築きながら写真を撮っていたという。
資料館によると、趙さんは33年に愛知県で生まれた。家計を支えるため15歳で中学を退学し、炭鉱で働いた後に24歳で上京。映像プロダクションで照明の仕事をしていた61年に東村山市の療養所「多磨全生園」を初めて訪れた。「入所者たちは、自分が炭鉱労働の地底で経験したような出口のない闇に閉じ込められている」と衝撃を受けた。
以後、入所者たちの思いや現状を社会に伝えるため、20年以上にわたり全国の国立療養所10カ所に通い、64歳で亡くなるまで2万点以上の写真を撮影。妻の斉藤君子さん(75)によると、自宅に約5千冊の本を集め、ハンセン病や差別について考え続けていたという。
同資料館の学芸員、金貴粉さん(34)は「趙さんの写真は所内の生活そのままを切り取っている。多くの人にハンセン病の歴史を知ってもらいたい」と話している。5月31日まで。〔共同〕