即位から4カ月、サウジアラビアのサルマン国王は、自らが描く統治者像を世界に示した。79歳の国王は、彼の王国の上層部を変え、決定的で驚くべき権力の交代を行った。異母兄弟の皇太子を解任し、2人の後継者を指名した今回の交代は、数十年にわたり維持されてきた長老支配よりも安定的で強力な統治をもたらすだろう。問題は、この中東の混乱の時代に、これがより対立的なサウジの外交政策の兆しとなるかどうかだ。
サルマン国王(左)と、副皇太子に指名された息子のムハンマド・ビン・サルマン氏(2012年5月、リヤド)=AP
サウジの支配層は常に秘密主義でライバルの家系に悩まされてきた。サルマン国王は、おいのムハンマド・ビン・ナエフ氏を皇太子に、お気に入りの息子であるムハンマド・ビン・サルマン氏を継承順位第2位の副皇太子に指名、将来の継承者の序列を確実なものとした。55歳のムハンマド新皇太子は、初代アブドルアジズ国王の孫として初めての次期統治者となる。初代国王の息子から国王が選ばれてきた伝統からは歴史的な変化だ。サウジの同盟国である欧米諸国は、これまで同国に対し、政権安定のためにそうした変化を促してきた。
当然のことながら、今回の改革は、答えとともに疑問も生む。ムハンマド・ビン・ナエフ氏は米国ではよく知られ、重要な人物と認識されている。しかし、サウジが内部に抱える問題は大きい。欧米では、超保守的な王国のサウジがより宗教の自由を受け入れるとともに、人口急増に対応して雇用を創出することが期待されている。しかし、新皇太子の改革に対する姿勢は不透明だ。
■武装組織「フーシ」への空爆を主導
今回の指名がより示唆に富んでいると思われるのは外交政策においてだ。サウジは中東で激しさを増す代理戦争をイランとの間で行い、スンニ派の政権を支え、シリアやイラク、バーレーンにおけるイランの影響力への対抗を試みてきた。副皇太子に指名されたムハンマド・ビン・サルマン氏は、イランが支持するイエメンのシーア派武装組織「フーシ」への空爆実施を主導した。同氏の昇格は、この大胆な政策のさらなる拡大を意味するのかもしれない。
もしそうなら、サウジ指導部は再考すべきだ。サウジはイエメンで空軍の恐るべき力を誇示し、自国への支援のためにアラブ諸国を集結させた。しかし、空爆は「フーシ」の弱体化につながらず、政治的解決は遠のいたままだ。またサウジにとって、中東でのイランとの争いを歓迎すべき理由はあまりない。サウジが勝利を主張できるとすれば、エジプトに軍事政権が戻ったことだ。しかし、サウジが多額の資金を代理戦争につぎ込んでもシリアやイラク、リビアに安定はもたらされなかった。
サウジが王国の継承者を変えたことで、米国も中東政策について熟考しなければならない。オバマ政権は核計画の縮小と引き換えに制裁を減らすことでイランと取引を進めている。それは正しい。しかし、ホワイトハウスはそれに加えてイランとサウジの共通の土台を築く努力をあらためて行い、核協定によって中東で緊張が高まることのないようにすべきだ。来月行われるオバマ大統領と湾岸諸国の指導者らの会談は率直な議論のための重要な機会だ。
オバマ政権は長らく、サウジが中東で果たす役割の拡大を期待してきた。アラブの指導者らに対しては、地域の問題に対応する際により大きな責任を担うよう促してきた。サウジの新たなリーダー達は、すでに(紛争の)火が上がる同地域に新たな火をつけるのではなく、安定を強化するやり方でこれを行う必要がある。
(2015年4月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.