【ワシントン=矢沢俊樹】米連邦準備理事会(FRB)は17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、事実上のゼロ金利政策の維持を決めた。あわせて焦点の利上げについて「労働市場のさらなる改善」とインフレ率が目標の2%へ戻っていくという「合理的な確信」が得られた段階で行うのが適切だとの見解を改めて示した。利上げを巡る方針は4月末公表した声明をそのまま据え置き、経済動向を見極める姿勢を強調した。
FRBは17日のFOMCで、事実上のゼロ金利政策の維持を決めた
声明は全会一致で決定した。
米経済活動は2015年1~3月期にマイナス成長に陥った後は「緩やかな拡大が続いている」と指摘。雇用者数は上向き傾向にあり、失業による「労働資源の未活用」は「幾分、減少した」と説明した。今後の景気見通しについても「緩やかなペースの拡大が続く」との基調となる判断を堅持している。
焦点だったゼロ金利政策の方向性を示すフォワードガイダンス(時間軸政策)について声明は、労働市場とインフレ見通しの改善を見極めるとした4月声明の一節に修正を加えず、そのまま踏襲した。イエレンFRB議長らはすべて会合ごとに利上げがあり得るとの立場を示している。同日の声明も市場関係者の多くが予測する9月利上げを含め、時期について選択の幅を残した格好だ。
FOMCが公表したメンバーによる政策金利見通しでは、15年末時点の政策金利が1.0%以上になると予測する向きはいなくなる一方、0.625~0.875%の範囲に合わせて10人が位置した。3月と同じ数だ。一方で0.375%にとどまると見る向きも3月時点の1人から6月は5人に増えた。こうした予測分布の変移からは、年内は9月に利上げして年内はいったん打ち止めにしたり、12月にようやく利上げできる状態になるとみる慎重な向きが3月時点よりも増えたことを意味している。
一方、FOMCが同日改定した中期経済見通しでは、15年の実質国内総生産(GDP)伸び率が1.8~2.0%の見通し。15年1~3月期に悪天候の影響などで米経済がマイナス成長に陥ったことに伴い、3月時点の予測2.3~2.7%を大きく下回った。ただ、16、17両年の成長率は上向きに微修正した。長期的な巡航速度(潜在成長率)は2.0~2.3%で変わらない。
また、15年の失業率は景気回復に伴って労働参加率が上昇する可能性を折り込み、5.2~5.3%にやや引き上げた。15年のインフレ率(コアPCE)は1.3~1.4%で前回予測と変わらなかった。
6月17日に発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明は次の通り。
前回4月のFOMC会合後に得た情報によると、1~3月期にはほぼ横ばい状態だった米経済活動は、穏やかに拡大してきている。雇用数の増加ペースは上向いたが、失業率は横ばいとなっている。全体的にみると、幅広い労働市場関連の指標は、労働資源の未活用の状況がやや改善したと示している。家計支出は穏やかに伸びており、住宅市場はいくらかの改善を見せている。一方、民間設備投資や純輸出はまだ弱い。
物価上昇は先ごろのエネルギー価格の低下とエネルギー以外の輸入価格の低下の影響もあり、FOMCの長期目標を下回る水準で推移している。ただ、エネルギー価格は安定したようにみえる。市場で測定したインフレ値は低水準にとどまっているが、アンケート調査による測定では長期のインフレ予想は安定した状態を維持している。
法律で定められた使命を達成するため、FOMCは雇用の最大化と物価安定の促進に努める。FOMCは適切な金融緩和政策によって経済は穏やかなペースで拡大し、労働市場関連の指標はFOMCの二大使命と整合的な状態に向かって動き続けていくと予想している。景気見通しと労働情勢に対するリスクはほぼ安定した状態にあると引き続き判断している。
短期的には物価上昇率は現在の低い水準にとどまるが、中期的には雇用情勢がさらに改善し、エネルギー価格や輸入価格の低下よる一時的な影響が消えていくとともに、物価上昇率も次第に2%に向かって上昇していくと予測している。FOMCは物価の動向を注意深く観察し続けていく。
FOMCは17日、雇用の最大化と物価の安定にむけて続いている改善状態を後押しするためには、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を現在の0.0~0.25%で維持するのが適切であると再確認した。この金利を維持する期間の決定にあたっては、雇用の最大化と物価上昇率2%という目標に向けた現在の前進ぶりと今後の改善予測の両方を評価していく。労働市場の情勢を示す指標や、インフレ圧力やインフレ期待の指標、金融市場の状態や国際情勢を含めた幅広い情報を考慮して判断していく。労働市場がさらに改善し、物価も中期的には目標の2%に向かって戻っていくと合理的に確信できた時、今後政策金利の誘導目標を引き上げるのが適当になると予想している。
米機関債と住宅ローン担保証券の償還した元本を住宅ローン担保証券に再投資し、保有国債の償還金を入札で再投資する既存の政策は維持する。米連邦準備理事会(FRB)が非常に大きな額の長期証券を保有し続けるこの政策は、金融緩和状態を維持するのに役立つはずだ。
FOMCが金融引き締めを始めると決定したときは雇用の最大化と物価上昇率2%の2つの長期目標と一致するバランスのとれた方策を実施していく。今のところは、失業率や物価上昇率がFRBの二大使命と整合する水準近辺に収まった後でも、経済情勢によってはある程度の期間、FF金利の誘導目標をFOMCが長期的に通常とみる水準以下に維持することが正当化される可能性もある。
決定はイエレン議長及びダドリー副議長を含む10人のメンバー全員の賛成による。
(ワシントン=岩本昌子)