ソニーは30日、公募増資と新株予約権付社債(転換社債=CB)の発行などで最大4400億円を調達すると発表した。26年ぶりの公募増資で長期の資金を確保し、世界首位の画像センサーに集中投資して競争力をさらに引き上げる。ほぼ10年に及んだエレクトロニクス事業のリストラに区切りがついたと判断し、経営の軸足を成長に移そうとしている。
ソニーは公募増資で約3200億円、CBで約1200億円を調達する計画だ。増資による新株発行は最大で9200万株、CBは新株予約権が全て行使された場合で2271万株となり、合計で発行済み株式数の9.8%に相当する。公募増資は国内で約4割、海外で約6割を募集し、払込日はともに7月21~23日の予定だ。
「資金調達するなら公募増資だ」。プロジェクトが動き出したのは昨年12月。資金調達を提案してきた投資銀行の関係者に、ソニーの幹部はこんな胸の内を明かした。
発言の裏には構造改革への手応えがあった。エレキ部門のリストラに追われてきたソニーだが、本社や販売会社の人員削減といった痛みを伴う施策で社内に危機感が浸透していた。昨年末時点で、ある幹部は「業績のターンアラウンド(再生)は確実だ」とみていた。呼応するように株価は上がり、株式市場から具体的な成長戦略を求める声が強まっていた。
2月には平井一夫社長と吉田憲一郎副社長を核とする新たな経営体制が固まり、「利益創出と成長への投資」と掲げた2018年3月期までの経営計画を策定した。平井社長は「これからは将来に向けた成長機会の創出に力を入れる」として、成長シナリオの達成に必要な資金確保のチャンスをうかがっていた。
今回、調達する資金はスマートフォン(スマホ)のカメラで使う画像センサーなど、デバイス事業の増産投資と研究開発に使う。成長の3本柱であるデバイスとゲーム、映画・音楽のうち、潜在的な成長力の大きいデバイスへの重点投資を鮮明にした。18年3月期に同部門の営業利益を最大で1800億円と前期比2倍に伸ばす計画だ。
増資は自己資本比率(金融を除き前期末で約29%)を高める。財務体質の改善が格付けの向上につながれば、社債などを使った資金調達がやりやすくなる。不振部門の止血が優先され、技術や製品への投資がおろそかになっていたソニーが、パナソニックや日立製作所のように攻めの投資に動くきっかけになる。
30日の株価は一時、前日比9%安い3430円まで下落した。増資報道を受けて1株あたりの価値が薄まるとの懸念が広がったためだが、終値は8%安と新株発行に伴う希薄化率(約10%)を下回った。市場からは「強い事業を伸ばすための前向きな増資」(しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹氏)との声が聞かれた。
ソニーは18年3月期までに連結営業利益で5000億円以上(前期は685億円)、自己資本利益率(ROE)で10%以上の達成を目標とする。合理化を進めたとはいえスマホやテレビは需要と価格の変動が激しく、安定した収益の確保は容易ではない。増資で手にする資金を使い今度こそ期待に応えられるか。市場は平井体制の手腕に注目している。