【イスタンブール=佐野彰洋】中東の新興国トルコが揺れている。総選挙から2カ月が過ぎても次期政権の枠組みがまとまらず、政府と少数民族クルド人の非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)との和平崩壊を背景にテロ事件が続発するようになった。通貨リラへの売り圧力が強まり経済に悪影響が出始めた。
6月上旬の総選挙で国会議席の過半数割れに後退した与党・公正発展党はテロの背後にPKKがいると示唆することでPKKと関係が深いクルド系政党、国民民主主義党の支持率を低下させる狙いだとみられている。公正発展党の出身で同党に大きな影響力を持つエルドアン大統領が年内にも総選挙をやり直し、単独過半数の回復を目指すとの観測も根強い。
トルコ政府は7月下旬に隣国シリアで活動するイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」(IS)やPKKへの軍事攻撃を始めた。その後、シリア国境に近くクルド人が多く住むトルコ南東部を中心にテロ事件が相次いだ。10日には南東部のシュルナクで警察車両への攻撃などが起き、計5人が殺害された。
10日にはトルコ北西部にある最大都市イスタンブールにテロが波及した。同市の警察署に爆弾を積んだ車両が突っ込み、銃撃戦を含め計4人が死亡した。ロイター通信によると、11日までにPKKがインターネット上に犯行声明を出した。
トルコ軍は10日から11日にかけ、同国南東部のハッカリにあるPKKの拠点17カ所を空爆した。
ISやPKKへの攻撃は公正発展党が主導。同党は総選挙での後退の要因が、ISへの取り締まりが緩かったことにクルド人の一部が反発したことや、クルド系政党、国民民主主義党の躍進などだと考えている。
10日には第1党の公正発展党のダウトオール首相と、第2党の共和人民党のクルチダルオール党首が連立に向け協議したが合意に至らなかった。
トルコでは大統領が第1党の党首に組閣を命令してから45日以内に新政権ができない場合、大統領が総選挙のやり直しを決めることができる。組閣期限は23日で、エルドアン大統領は期限が過ぎた後、再選挙に持ち込む構えを示唆している。
政治空白と治安の悪化は経済の重荷になっている。通貨リラは1ドル=2.7リラ台に下がり、年初来の安値に近づく。外国からの投資や観光収入も減少傾向だ。7月下旬以降、ドイツやイタリアなどの政府は自国民に対し、トルコ東部への渡航の自粛を呼び掛けている。
15年の国内総生産(GDP)成長率は政府目標の4%を大きく下回るとの見方が市場関係者に広がっている。
トルコの世論調査会社ソナルが7月24日から8月4日にかけて実施した調査によると、公正発展党の支持率は42.9%にとどまる。この状態で再選挙を実施しても公正発展党が単独過半数を回復できるかどうかは微妙な情勢だ。一方、公正発展党が敵視する国民民主主義党の支持率は目立って落ち込んでいない。