海外で暮らす被爆者にも被爆者援護法に基づく医療費の全額支給が認められるかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は8日、「在外被爆者が国外で医療を受けた場合も適用される」との初判断を示した。厚生労働省は判決を受け、訴訟を起こしていない人も含めた約4200人の在外被爆者全員に医療費を支払う方針を決めた。
同小法廷は判決理由で「在外被爆者が医療を受けるために来日するのは困難だ」と指摘。「国外で医療を受けた場合に医療費の支給を受けられなければ、被爆者の健康状態に着目し救済するための法の趣旨に反する」と述べた。そのうえで、国の指示を受けて支給を認めなかった大阪府の上告を棄却。原告側の勝訴が確定した。裁判官5人全員一致の判断。
原告は広島市で胎内被爆した韓国人男性、李洪鉉さん(69)と、死亡した2人の遺族。韓国で肝臓がんなどの治療を受け、自己負担した医療費の支給を大阪府に申請したが却下され、取り消しを求めて提訴した。
国は被爆者援護法について「国内での医療を想定している」と解釈。海外の医療機関で受診した場合は同法の対象外として医療費を支給せず、別の上限付きの助成事業で対応してきた。
一審・大阪地裁は2013年の判決で同法について「在外被爆者に適用されないと限定的に解釈すべきではない」として府の処分を取り消した。二審・大阪高裁も一審判断を支持し、府側が上告していた。
同様の訴訟は広島、福岡両高裁(一審は広島、長崎両地裁)で継続中。厚労省はこの2件についても、全額支給の方向で広島、長崎両県と調整する方針で、訴訟は終結に向かう見通しだ。