築43年の元県営住宅を改装し、手塚治虫や赤塚不二夫ら多くの漫画家が住んでいた「トキワ荘」のような若い才能が育つ場にしようとする取り組みが、金沢市で進んでいる。無料で仕事を引き受けてもらう代わりに家賃は0円。若い力の首都圏流出を食い止め、地域活性化につなげたいという狙いもある。
運営するのは金沢市の不動産会社「クラスコ」。老朽化した県営住宅を買い取り、リノベーションを試みたが、4割が空室のまま。そこで安い家賃と仕事を求めるデザイナーや美大生らクリエーターに着目した。「地域にとっての刺激にもなると考えた」と小村典弘社長。
建物は鉄筋コンクリート5階建て。エレベーターはないが造りは頑丈。3DKの仕切りや畳を除き、入居者は壁紙など47平方メートルのスペースを自由にアレンジできる。家賃は無料。クラスコが他企業から依頼されたイベントの企画やウェブデザインの仕事を入居者に紹介し、家賃に相当する3万~4万円程度を差し引いた残りは入居者の収入になる。
今年春、14室の募集を開始したところ、4人の入居が決まった。現在はベテラン中心だが、5階に入居した商業ディスプレーのデザイナー、岡嶋健一さん(45)は「若手と交流して新しい発想に触れたい」と楽しみにしている。隣室には友人のカメラマンが入居し、スタジオを構える。
岡嶋さんの部屋は真新しいフローリングの上にアンティークの家具やハンモックが並び、個性がうかがえる。3階の一室は入居者が自由に使える共有スペース。学生を呼んだワークショップなど、交流の場にする予定だ。
元県営住宅や周辺地域は高齢化が進んでいる。小村社長は「トキワ荘のようにアイデアを生むクリエーターが集まって町を元気にしてほしい」と話す。〔共同〕