【ベルリン=赤川省吾】クロアチアで8日、議会選が投開票され、保守系の野党・クロアチア民主同盟が第1党になったもようだ。マイナス成長から抜け出すための雇用対策などを公約し、政権への批判票を取り込んだ。難民受け入れに柔軟な姿勢を示してきた同国政府だが、民族主義的な同党が政権を握れば、難民を域内各国で分担して受け入れることを目指す欧州連合(EU)の政策にも影響を与えることになる。
地元テレビ局によると開票率54%の段階で民主同盟の陣営が得票率36%(61議席)。一方、与党で中道左派の社会民主党の陣営が32%(53議席)。どちらも過半数(定数151議席)に届いていないため、政権交代が実現するかは中小政党との連立交渉に委ねられることになる。
野党有利となったのは「経済状況が悪く、社会に不満がくすぶっていたことが理由」とOIIP研究所のべドラン・ジヒッチ氏は分析する。ここ2~3年のあいだに民主同盟では、民族主義的な派閥の力が強まっていた。それが右派の有権者を引き寄せた面もある。
一方で与党の社民党は2013年に欧州連合(EU)への加盟を果たしたが、景気の低迷で支持率が低下していた。
ドンチッチ運輸相は投票前に日本経済新聞に「(政権が続投すれば)ビジネス環境を改善したい」と語っていた。野党の追い上げをかわすために減税などの公約を掲げたが、弱った支持基盤は回復しなかった。
保守系の民主同盟は欧州統合に懐疑的な立場ではない。それでも政権を握れば経済政策と難民対策の2つでEUとのあつれきが増す可能性がある。
すでにクロアチアは大幅な財政赤字に陥っている。景気対策を講じ、赤字幅が広がれば「EUから是正を命じられるかもしれない」とライフアイゼン・リサーチのアナリスト、マーティン・シュテルツェネデル氏は指摘する。
民主同盟のマレティッチ欧州議会議員は取材に「脱税防止や農業改革などにも取り組みたい」との抱負を語ったが、財政再建などの構造改革は遅れそうだ。
10月にポーランドで行われた議会選でも保守派の野党が勝利した。ここでもEU加盟の恩恵を受けられていないと感じる有権者が政府への批判票を投じ、政権交代につながった。中・東欧の相次ぐ「右旋回」で構造改革が停滞し、難民問題をEUが一体となって解決するという機運が遠のく。