一方、2015年7-9月期における直近12カ月合計値の名目GDPは500兆円程度。アベノミクスが始まった2012年10-12月期以降に回復しているとはいえ、リーマンショック直前の水準に戻せていない。株式市場の回復スピードに比べ、名目GDPの回復が遅れている。
足元の状況を比べると、株式市場の時価総額が名目GDPの水準を上回っている。今後、名目GDPが大きく改善するなら「株式市場は経済回復を織り込んでいた」と評価されるであろうが、もし名目GDPの回復が不十分なまま推移すれば「株式市場には過熱感があった」とみなされる可能性がある。
安倍政権が「名目GDP 600兆円」という目標を示した理由の1つは、これに関連しているように思う。
あくまで私の想像だが、株価を重要視しているであろう安倍政権は、現在の株式市場の時価総額600兆円という水準を、一時的なものではなく、継続的に維持したいと考えているのではないか。現在の水準を維持するために、つまり「現在の株価は割高でない」と示すためには、グローバルの投資家に「日本の名目GDPは将来600兆円になる」という道筋を示しておきたい。そういう腹積もりがあったのではないかと思える。
株価を維持しなければならない理由は大きく2つあると考えている。
1つは、後ほど見ていくが、株高は資産効果を通じて、GDPのうちで最も比率の高い国内の民間消費に影響を与える。株価が崩れることは、国内消費を鎮静化させる可能性がある。株価動向で国内の消費の腰を折りたくはないと考えているのではないだろうか。
もう1つは、株価は企業の将来の期待収益を織り込むものであり、資本市場関係者が経済成長を目指す安倍政権の方針を信用しているかどうかの一端を示すものである。株価は究極の公開情報であり、国内だけではなく世界中にリアルタイムで伝えられる。日本の株式市場は、外国人投資家による売買比率が半分を超えている。為政者としては、株価を考慮しながら自らの成長戦略の正当性を示すだけでなく、その実現をグローバルの資本市場と対話しながら進めることは必要であろう。
資本市場と対話をする姿勢があるのだとすれば、それは決して悪い話ではない。資本市場が期待しない政策を打ち出せば、株価が下落するという形ですぐに反応する。ならば、政策を練り直して改めて打ち出せばよい。そうした試行錯誤を繰り返しながら戦略を練り直すことが可能だからである。
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