【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は28日、欧州を拠点とする多国籍企業の課税逃れを防ぐための法案を加盟国と欧州議会に提出した。典型的な課税逃れの手口を法整備で“封印”するのが狙いだ。企業にグループ全体の税務情報を報告させて、EU加盟国で共有する制度も創設する。
経済協力開発機構(OECD)が2015年にまとめた国際的な課税逃れ防止の新ルールに従った法整備を進める。欧州議会の試算によると、欧州では1年間で最大700億ユーロ(約9兆1千億円)の税収が多国籍企業の課税逃れによって失われているという。
法案は典型的な課税逃れの手口に狙いを定めて法的に“封印”することを目指すのが特徴。例えばタックスヘイブン(租税回避地)に設けた子会社へ利益移転する課税逃れは、移転先の税率が親会社があるEU加盟国の税率の40%に満たない場合、移転を税務上は無効とみなし、利益に課税できるよう見直して防ぐ。
法人税の国ごとの足並みの乱れを狙うことが多い課税逃れを防ぐため、EU域内で多国籍企業の税務情報を自動的に共有する新制度も設ける。
ただ欧州委が提出した法案に対し、産業界からは懸念の声も上がる。欧州の経済団体ビジネスヨーロッパは「EUが(課税逃れ防止の分野で)孤独な先頭ランナーになって、欧州産業の競争力を低下させたり、EUへの投資の魅力を傷つけたりしてはならない」とのコメントを公表した。