15日に閉幕した主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、各国に課税逃れを防ぐ国際的なルールに取り組むことを求め、制裁措置も辞さない方針で一致した。世界を揺るがせた「パナマ文書」が背中を押した形だが、実現のハードルは高い。
共同声明には、国外にある自国民の銀行口座などの課税情報を、各国の税務当局者が交換する国際ルールを強化する対策が入った。
情報提供に非協力的な国を特定する基準を、経済協力開発機構(OECD)が7月までにつくる。参加国には来年秋ごろとみられるG20首脳会合(サミット)までに、これを満たすよう求めた。税金の安い外国に資産をためておこなう脱税や資産隠しを防ぐ目的のため、非協力的な国は「ブラックリスト」にのせて公表し、税負担を重くするなどの対抗措置を取る方針だ。
■インドやトルコは難色
会合では、14日の開幕直前にOECDなどが出したルール強化策に、日米やカナダ、議長国の中国などが賛同した。だが、新興国のインドやトルコは難色を示した。法整備などを進める人材やノウハウが豊富な先進国と比べ、高い水準にあわせるのは不利だからだ。
最後までもめた文言の一つが、「G20サミットまでに、すべての国・地域が順守状況を改善する」という部分。15日未明までの話し合いでも解決せず、いったん午前2時半ごろに協議を終えたが、この日朝に中国がとりもって、なんとか合意にこぎつけた。税についての会合では、各国の多くの大臣が発言して、関心の高さをうかがわせた。
一方で、財政政策や構造改革など、景気てこ入れ策の議論は盛り上がらなかった。声明の文言はほぼ前回と同じで、関係者は「主要テーマは税逃れ対策だった」と明かす。
世界的に格差が広がるなか、各国の首脳らを揺るがした「パナマ文書」が明らかになり、課税逃れをする大企業や富裕層への批判は無視できない。麻生太郎財務相は閉幕後の記者会見で、「極めて有効に働くと思う。パナマ文書が出てきたおかげで、関心が高まった」と胸を張った。
■達成のハードル高く
今回の取り組みが租税回避の問題解決につながるかどうかは、まだ見通せていない。各国の法整備や情報にアクセスする税務当局の権限などが壁となり、G20の目標達成には「高いハードルがある」(日本政府関係者)と見られている。
抜け穴をふさぐため、すべての国がルールを守って足並みをそろえる必要があるが、そう簡単ではない。「水が漏れるように、税も制度の隙間をめがけて流れ込む」(日本の財務省)ためだ。国際的に合意はできて、各国に意欲があったとしても、「壁」を乗り越えるのに時間がかかる国が出てくる可能性がある。
米国にも、企業に有利な法体系を持つデラウェア州やネバダ州など、事業活動の実態がないペーパーカンパニーの温床と批判される地域もある。アメリカン大学のドナルド・ウィリアムソン教授は「途上国にも、外国から呼び込んだお金を持ち続けたい国がある」と指摘する。
G20は今回、多国籍企業の租税回避を防ぐための国際課税のルールについて、すでに合意している44カ国よりさらに参加国を増やすことでも一致した。6月には京都で、このためのOECDの会合が開かれる。欧州5カ国が先んじて合意した、ペーパーカンパニーなどの実質的な所有者の情報を交換する独自の枠組みについても、前向きな姿勢をみせた。課税逃れ対策は、こうしたいくつかの国際的な枠組みを新たに動かすことで、抜け穴を小さくしていくしかない。(ワシントン=五十嵐大介、大津智義)