事故直前の作業(イメージ)
神戸市北区で22日、建設中の新名神高速道路の橋桁(長さ約120メートル、重さ約1350トン)が国道に落下して作業員2人が死亡、8人が重軽傷を負った事故で、落下した橋桁の西側を支えていたジャッキ4基のうち、2基が崩れ落ちていたことがわかった。西日本高速道路(NEXCO西日本)関西支社や兵庫県警が取材に明らかにした。県警はジャッキが崩れた理由を詳しく調べる。
同支社によると、ジャッキは鉄製で高さ約3メートル。仮設の台に四つ載せられており、橋桁西側を支えていたという。事故が起きた22日は、橋桁をつり下げる際にワイヤをつなげる金属棒3基(計75トン)を橋桁西側の上部に接着させ、ワイヤで仮留めする作業をしていた。作業が終わったのは午後4時すぎで、事故発生の約20分前だったという。
同支社は「(金属棒を)橋桁に載せることで重くなるが、想定外というほどではなかった」と説明している。だが県警は、金属棒の接着により橋桁西側が重くなったことで、ジャッキが崩れ落ちた可能性も含めて調べる。
県警は23日から業務上過失致死傷容疑で現場検証を始めており、24日以降も続ける方針。またNEXCO西日本は23日、今回の事故について有識者による技術検討委員会を28日に設置することを決めた。
一方、県警は23日までに死傷者10人の身元などを明らかにした。全員が現場の作業関係者で、大阪市此花区の会社員田中幸栄(ゆきひさ)さん(37)と兵庫県伊丹市の会社員福田佳祐(けいすけ)さん(32)が死亡。19~40歳の男性6人が骨折などの重傷を負い、20歳と68歳の男性2人がけがをした。落下した橋桁の西側周辺で6人が、東側周辺で4人が作業中だったという。
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横浜国立大の藤野陽三・上席特別教授(社会基盤構造学)の話 橋桁の長さが100メートルを超える工事は難易度が高くなる。橋の建設数が全国的にピークを迎えた時期から10年以上が過ぎており、経験が豊富なベテラン作業員が少なくなってきた。どこかに安全対策の見落としがあったのではないか。
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崎元達郎・熊本大名誉教授(橋梁〈きょうりょう〉・構造工学)の話 橋桁自体が何らかの原因で左右もしくは前後に揺れてしまい、バランスを失って、橋桁を下支えしていたジャッキを崩してしまったと考えるのが自然だ。地震などの震動がなかったのであれば、人為的な作業がバランスを失わせる原因を作ってしまった可能性がある。
■過去にも死亡事故 今回の施工業者、工法も同じ
工事を担当した横河ブリッジ(千葉県船橋市)は1997年9月、北海道千歳市の高速道路で実施した橋桁の取り付け工事で、作業員3人が死亡する事故を起こしていた。当時も今回の事故現場と同様の「送り出し工法」と呼ばれる工法を採用していた。
親会社の横河ブリッジホールディングス(東京都港区)によると、当時の事故現場は、北海道千歳市の北海道横断自動車道と道央自動車道を結ぶジャンクション部分。長さ約110メートルの橋桁を台車で滑らせて三つの橋脚に渡す途中、先端部分がずり落ち、橋脚上で作業していた作業員らが橋桁に挟まれるなどして死亡した。
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施工していた「横河ブリッジ」(千葉県船橋市)の親会社「横河ブリッジホールディングス」(東京都港区)は23日、神戸市の事故について「このような重大事故を発生させましたことについて、深くおわび申し上げます」と謝罪するコメントを発表した。事故への対応や原因究明については「全力で取り組んでまいります」としている。