ブルワーズ戦でメジャー通算500盗塁に成功した、マーリンズのイチロー=AFP時事
(29日、大リーグ)
二盗を決めた瞬間、ベンチにいる同僚が拍手を送った。イチローは仲間に視線を送り、あごを少しだけ動かした。節目の大リーグ通算500盗塁を達成。数々の金字塔を打ち立てた背番号51の新たな勲章だ。
イチロー、メジャー通算500盗塁達成 大リーグ
一回。慣れ親しんだ1番に入り、右前打で出塁。2番プラードの打席の10球目、イチローは投手のモーションを盗んで加速した。捕手の送球がそれてイチローに当たる。二盗が決まった。
技術が光った。2度スタートを切り、いずれもプラードがファウル。しかし、モーションは盗んでいた。投手からの牽制(けんせい)も計3度。その警戒をかいくぐった。イチローが盗塁を積み重ねた理由が詰まっていた。
昨季まで15年連続で2桁盗塁。誰よりもトレーニングを欠かさず行う鍛錬の成果だが、気持ちも衰えない。42歳のイチローはキャンプ中にこう言った。「『自分は若手ではない』と言っていない(思っていない)」。
40歳を過ぎても「走れる選手」は球界広しといえど、いない。マリナーズの青木は「あの年齢で走れるなんて本当にすごい」と驚く。走攻守にこだわり続けた結果の数字。これからも年齢の壁に挑戦しながら、記録を積み上げていく。
■「彼は選ばれた一人だ」
1406盗塁の大リーグ記録を持つリッキー・ヘンダーソン氏(57)もイチローの才能には目を見張る。「500に到達できるのは一握りの非凡な選手だけ。彼は選ばれた一人だ」
「マン・オブ・スチール」の異名を取ったヘンダーソン氏は、イチローを「盗塁の科学者」と表現する。盗塁をするには俊足であることに加え、投手の癖や捕手の肩、野手の位置、グラウンド状態などを計算する頭脳が必要。その全てがそろって、イチローの8割1分4厘という高い盗塁成功率が生まれている。
さらに、最も高く評価するのが自己管理能力だ。「ベストの体を保つ努力を続けているはず。盗塁を狙う選手がどれほど体重や健康に気を使うか、ほとんどの人は想像できないだろう」。加齢に伴うスピードの衰えにあらがうために、体形や筋力を保つ努力を怠らなかったことが栄光につながったと分析する。
ヘンダーソン氏は、イチローが大リーグデビューした年に42歳だった。「体調が整っていてもベンチで過ごす時間が長くなった」と当時を振り返るが、「声が掛かれば最高の状態で飛び出して試合に集中した」。42歳からの3シーズンで計36盗塁を積み重ねた。
古巣アスレチックスで臨時インストラクターとして走塁指導に当たるヘンダーソン氏。「ユニホームを脱ぐ最後の瞬間まで野球を楽しんでほしい。まだ残された時間はある」とイチローにエールを送った。(時事)