シドニーの観光名所・タウンホール前で記念写真に納まった姉妹の人形。右が姉の愛梨ちゃん
お姉ちゃんと一緒に旅行に行きたかった――。東日本大震災で姉を失った宮城県石巻市の佐藤珠莉(じゅり)さん(8)は、そんな思いを抱え続けていた。昨年のクリスマス、姉妹を模した毛糸の人形を「世界中に旅行させて」とサンタにお願いした。その夢をかなえようと、協力の輪が広がっている。
特集:3.11震災・復興
珠莉さんの姉・愛梨(あいり)ちゃん(当時6)は、石巻市の私立日和幼稚園に通っていた。震災直後、園から海側へ向かった通園バスが津波と火災に巻き込まれ、命を落とした。
一昨年の夏、珠莉さんはテレビを見ていた。病気の子をモデルにした人形を海外旅行へ行く人に託し、観光名所を背景にした写真を撮ってもらう番組だった。「愛梨お姉ちゃんもこうしてもらえないかな」。一緒に見ていた母・美香さん(41)に漏らした。美香さんは復興支援団体を通じて制作を依頼。その年のクリスマスに姉妹の人形が届いた。
翌年、この話を聞いた村田町のNPO法人「ガーネットみやぎ」が、旅行を実現させようと動き出した。日程や目的地を調整し、海外を訪れる人に人形を託す。協力者の一人、東京都のトラベルライター岩佐史絵さん(44)は「今までは直接的な支援をできなかったけど、これならば仕事の際に協力できると考えた」。
活動を知ったサッカーJ1の浦和も、協力を名乗り出た。アジア・チャンピオンズリーグでオーストラリア遠征があったためだ。
現地では選手やスタッフが、練習や試合会場のほか、オペラハウスなどの観光名所の近くを通ったときに写真を撮った。震災当時は、J1仙台に所属していたFW武藤雄樹選手(27)は言う。「震災でつらい思いをした人は多くいる。5年が経って風化させてはいけないし、少しでも珠莉さんの願いをかなえる力になりたい」
美香さんは、「人形はサンタさんが旅行に連れて行ってくれている」と言い聞かせているという。「珠莉が真実を知ったとき、いろいろな人への感謝が芽生えると思う。心の成長につながってほしい」と願う。
姉妹の人形は昨年末のベトナムを皮切りにシンガポール、フィンランドなどをめぐり、オーストラリアで10カ国目に達した。今後はアラブ首長国連邦、オランダなどへ旅立つ予定だ。協力の申し出はガーネットみやぎホームページ(
http://garnet-m.net/
)の問い合わせフォームまで。(藤木健)