ロンドン市長選の投票前日の4日、ロンドンの市場で支持者を回る労働党のサディク・カーン氏(右)=AFP時事
ロンドン市長選で、パキスタン移民2世で労働党下院議員のサディク・カーン氏(45)が現職の後継候補を破って初当選した。「初のイスラム教徒の市長誕生」と世界の耳目を集めたが、最大の争点は住宅問題だった。特に4年前の五輪・パラリンピックの開催で急速に開発が進んだ東部の下町で深刻になっている。4年後に五輪を迎える東京にとっても大きな課題だ。
2期8年務めた保守党のボリス・ジョンソン氏(51)の任期満了に伴う今回の市長選。カーン氏と保守党のザック・ゴールドスミス氏(41)の事実上の一騎打ちの構図だった。
ロンドン市民のうちイスラム教徒は約12%(2011年)。低所得者向けの公営住宅で育ったカーン氏は、住宅不足や価格高騰への保守党市政の対応を厳しく批判。地域住民を優先した住宅販売や賃貸家賃の抑制を掲げ、支持を広げた。
劣勢の対立陣営は、イスラム教徒のカーン氏を過激派と結びつけるようなネガティブキャンペーンを展開したが、「分断をあおる」と逆に支持離れを招いた。
以前から住宅問題を抱えるロンドン。五輪開催はそれに拍車を掛けた。もともと招致の目的の一つが、化学工場や廃棄物処分場が立ち並ぶ東部の再開発だった。05年の招致決定後、主に工業用地だった地域にオリンピック公園が造られ、メインスタジアムが建てられた。
英ロイズ銀行によると15年3月の時点で、オリンピック公園近隣14地区の不動産価格は1戸あたり平均約37万9千ポンド(約5860万円)。五輪招致が決まった05年7月から約10年で約17万3千ポンド(約2670万円)、84%上昇した。上昇幅は、イングランドとウェールズの平均値の約2倍だ。
選手村は五輪閉幕後、約3千戸の住宅に生まれ変わりつつあるが、人口の集中が続くロンドンでは、需要に追いつかない。外国人投資家の不動産投機も、値をつり上げる。元々の住民が暮らせなくなっている。