練習をする矢沢一輝=長野県の犀川
僧侶に神主、鉄道員――。リオデジャネイロ五輪の出場者には変わり種の選手がいる。多くがマイナー競技のアスリートだ。資金面の支援が得られず、競技だけで生活できない現状がある。練習に専念できる環境をつくるための新たな取り組みも実を結びつつある。
特集:リオオリンピック
約1400年の歴史がある長野・善光寺。リオ五輪のカヌー・スラローム、カヤックシングル代表の矢沢一輝(27)は善光寺大勧進の僧侶でもある。日の出とともに目覚め、袈裟(けさ)をまとう。午後3時まで1日5回、祈禱(きとう)にあたる。「まだ正座は慣れない」と笑う。
お勤めを終えると、ワゴン車を約20分走らせ、艇庫のある犀川へ。練習時間は約1時間半と限られるが、「カヌーを楽しみながら、できる範囲でやることが大切」。パドルの感覚を確認しながら、川を往復する。
仏門をたたいたのは、2度目の五輪出場だった前回のロンドン大会がきっかけだった。日本勢で過去最高の9位に入ったが「引退後のセカンドキャリアが不安になった」。いずれは結婚し、家庭を築きたい。競技を続けても、カヌーで生計を立てられないと思った。
宗教に興味があったわけではない。ただ、競技生活をサポートしてくれた長野県カヌー協会の小山健英会長が善光寺近くの寺の住職だった。「小山さんのように、いつかは困った選手を助けられる人になりたい」。2013年夏、比叡山での2カ月の修行を経て、大勧進に入った。
昨年4月の全日本大会で優勝。9月の世界選手権でリオへの出場権を得た。3度目の五輪も「チャンスがあるなら」と狙っていた。リオには、妹の亜季(24)も出場する。「行くからには、勝ちに行きたい」。前回は届かなかったメダルに、きょうだいで挑戦する。(前田大輔)