亡くなったマネジャー、舟木あみさんの遺影を手にベンチ前に整列した古賀竟成館のマネジャーら=筑豊緑地、伊藤友博撮影
(10日、福岡大会 光陵10―0古賀竟成館)
「天国から見ているなら、力を貸して」
一回1死、古賀竟成館のエース谷口龍貴君(3年)は、光陵の3番屋久智哉君(3年)に先制2点本塁打を打たれ、ベンチに置かれたマネジャー舟木あみさんの遺影に目をやった。
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同級生の舟木さんは大会直前の5月30日、小児がんとの闘病の末に17歳で亡くなった。昨夏までスタンドには元気いっぱいの舟木さんの姿があった。谷口君がマウンドでピンチの時、好機で打席に立った時、「グッチ、がんばれ」と大声で励ましてくれるチームメート。最後の夏はベンチで支えてくれるはずだった。
最後まで病室でスコアブックをつけ続けた舟木さんに谷口君は甲子園出場で恩返しすることを誓った。しかし、その思いは力みにつながった。調子が良かったはずのカットボールを屋久君に右翼席に運ばれた。
光陵とは4月29日にあった地区大会で同じ筑豊緑地で対戦、6対7で打ち負けた。舟木さんも病床で悔しがり、「次は勝って」と願っていた。その思いに応えたかった。しかし、続く吉村有人君(3年)にも二塁打を浴びた。「今日も打ち合いになる。抑えよう」。気持ちを切り替えて投げた、外角の直球を武内翔大君(3年)が打ち上げた。「ライトフライ」。そう思った打球は右中間スタンドに吸い込まれた。谷口君は二回から一塁に回った。
「自分が出塁して打線に勢いをつけよう」。一回の攻撃で先頭打者で主将の緒方海人君(3年)は意気込んだが、思いは力みにつながり右飛に。二回2死一、二塁の好機にも1本が出ず、チームに焦りが募った。
谷口君の後、2番手の手柴龍二君(3年)が追加点を許さなかったが、四回につかまった。四球を出し、1死一、三塁。一回に長打を浴びた光陵の主軸を迎え、緒方君たちがマウンドに駆け寄った。「まだまだ。絶対追いつける」と声をかけた。
しかし、吉村君に適時打を浴びるなどして手柴君も降板。継投した鶴翔太君(3年)も打たれ、この回5点を失い、10点差に。五回コールドで、谷口君たちの短い夏が終わった。
この日は試合後、墓前で勝利を報告するはずだった。球場の外に出た谷口君はしばらくしゃがみ込んだ後、「申し訳ない。それしか報告する言葉はない」と語り、こう誓った。「舟木は天国からちゃんと見てくれている。これからの人生、一日一日を大切にしていきたい」(井石栄司)