リオデジャネイロの街を見下ろす丘の上で、原爆投下時刻に平和を祈る渡辺淳子さん(右から2人目)ら=5日午後8時15分、田村剛撮影
リオ五輪の開会式があったマラカナン競技場から南東に約8キロ。リオデジャネイロの街を見下ろす丘の上のファベーラ(スラム街)では5日夜(日本時間6日朝)、地元市民団体による平和集会があった。71年前に広島に原爆が投下された時刻に合わせて、20人余りが1分間、黙禱(もくとう)を捧げた。
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第2次世界大戦後、48年にロンドンで五輪が再開して以来、開会式と原爆の日が重なったのは初めてだ。集会に参加したブラジル在住の被爆者、渡辺淳子さん(73)は「被爆者だけでなく、戦争や暴力で苦しむ世界中の人のために祈った」と語り、涙を流した。
原爆の犠牲者だけでなく全ての人々を追悼し平和を祈る時間にしたい――。渡辺さんらブラジルの被爆者たちは、五輪開会式での黙禱を呼びかけてきた。広島の松井一実市長も同じく要請をした。
だが、この日、競技場では、冒頭に平和運動や反戦運動のシンボルとして使われる「ピースマーク」が会場に大きく映し出される演出はあったが、黙禱はなかった。
組織委幹部のマリオ・アンドラダ氏によると、リオ五輪組織委員会はこの場面について、メディア向け資料で「広島への追悼を表す」との解説を付けることを独自に計画。今年5月のオバマ大統領の広島訪問や2020年五輪の東京開催を踏まえて「広島」という言葉を盛り込むことにこだわりをみせていた。
だが、開幕前日の4日になって、国際オリンピック委員会(IOC)側が「米国選手団も参加する開会式では、政治問題になりかねない」と懸念を表明。結局、メディア向け資料も含め、「広島」に触れた表現はすべて削除されることに。演出を手がけたブラジルの映画監督フェルナンド・メイレレス氏も前日の記者会見で「政治的な内容は含められない」と語っていた。(田村剛)