マルサ-ルさん=ロイター
閉幕したリオ大会だが、約2週間前の開会式で見ている人に勇気を与えた聖火リレーの最終走者がいた。足が不自由のため、転倒したが、立ち上がり聖火を運んだ地元のマルシア・マルサールさん(56)。母国に初めてパラの金メダルをもたらした元陸上選手だ。「直前の大雨で足が滑ったの。神様が私の歩く姿に感動し、涙を流したのかな」と笑顔で振り返った。
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開会式で聖火を点灯する最終走者4人の中に選ばれた。式典終盤を襲った土砂ぶりの雨の中、左手でトーチを掲げ、右手で杖をつき一歩、一歩と進んだが、転んでしまった。「とにかくトーチを早く拾わないと、という気持ちでいっぱいだった」
そばに落ちたトーチを拾い上げ、再び歩き出すと、会場からは割れんばかりの拍手と声援が上がった。ところが、マルサールさんの耳には全く届かなかったという。「耳に式の進行を告げるイヤホンがついていたから。でも観客席に涙を流す人がたくさんいて、もらい泣きしてしまった」
2歳の時、はしかがもとで脳性まひに。16歳で陸上に出会い、パラリンピックは1984年に陸上200メートルで金メダル、88年には陸上100メートルで銀メダルを獲得した。リオから約80キロのリオ・ボニート市の自宅で80歳を超える母らと暮らす。
聖火リレーの話がもたらされたのは、開会式の約1週間前。組織委からはリレーの距離を短くする話もあったが、自宅の庭で、ヘアクリームの容器をトーチに見立てて練習。前日の予行演習でもうまくいったので、断ったという。
パラ期間中、陸上や車いすバスケットなどを観戦した。行く先々で、記念撮影を求める人たちに囲まれたという。「まるで政治家になった気分。改めて聖火ランナーに選ばれたことを名誉に感じている」
4年後は東京でパラが開催される。マルサールさんは「スポーツはみんなのもの。障害者も、高齢者も、たくさんの人にスポーツを楽しんでもらいたい」と話す。最後に逆に質問された。「4年後も私が東京に行って聖火をともしたい。誰か連れて行ってくれないかな」(山本亮介)