熊本県人吉市と湯前町を結ぶ第三セクター「くま川鉄道」(本社・人吉市)は、地震の影響による減収をカバーしようと10月8日から売り出す予定だった「くま川鉄道特別応援切符」(6千円)の発売を断念した。切符にあしらった少女のアニメキャラクターが、成人向けアニメゲームに使われているキャラクターと同一ではとの指摘を受けたための対応という。
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同社は、白の「白秋」や赤の「秋」など車体ごとの色で四季を表す車両「田園シンフォニー」計5両を保有する。応援切符は、車両の色に合わせた制服を着た5人のキャラクターを印刷した1日フリー券(1200円)を5枚セットにし、アプリを読み込んだスマートフォンをかざすとキャラクターと一緒に撮影できるAR(拡張現実)機能を付けた。
同じようなキャラクターが出ていると指摘されたのは鉄道をモチーフにしたゲーム。人吉市内と思われる風景が数多く描かれているが、性的な描写も多いとして、9月28日の市議会全員協議会で取り上げられた。議員の一人は「市民から通報があった。高校生が多く利用する鉄道で、青少年健全育成の観点からも問題だ」と指摘した。
切符に採用したキャラクターのデザインは、永江友二社長がゲーム会社に協力を依頼し、無償提供を受けた。事前に九州運輸局に相談した際も、問題ないと言われたという。永江社長は「ゲームとのコラボではなく、やましいところはないが、世論の反応を考えて販売を中止する」と話した。
同社は1989年10月に開業。当時は年間約140万人の利用客があったが、沿線人口や通学客の減少で2015年度は70万人を割った。営業赤字が続く中、地震の影響で観光列車の4~7月の乗客が前年の9割減と低迷したため、立て直し策にと応援切符1500組を用意。「くま川鉄道存続へ是非ご協力を」とのメッセージ文も添える予定で、永江社長は「鉄道がなくなると地域が衰退する。アニメブームに乗って、支援の輪を全国に展開したい」と期待していた。
社員の一人は「社内にも当初、不安視する声はあったが、収入の落ち込みを挽回(ばんかい)しようと必死だった」と話した。(知覧哲郎)