関学大のOL井若
アメリカンフットボールの関西学生リーグは9日で第4節を終えた。2連覇を狙う立命大、関学大、関大が4戦全勝。京大が2勝2敗で続く。次節から、この4チーム間の対戦が始まる。2年ぶりの頂点を目指す関学には危機感が漂う。
9日の神戸大戦は31―6での勝利だったが、序盤はQB伊豆充浩(4年、箕面)のパスが思ったように通らず、第2クオーターにWR松井理己(2年、市西宮)へタッチダウンパスが決まったかと思えば、反則でふいに。鳥内秀晃監督が試合後に言った通り「ちぐはぐ」な戦いで、上位対決へ弾みのつく試合ではなかった。
今シーズンの4年生は比較的おとなしい選手が多く、普段の練習やミーティングで最も存在感のあるのが、3年生のOL(攻撃ライン)である井若大知(いわか・だいち、箕面自由学園)だという。
井若は身長173センチ、体重108キロ。攻撃の最前列でぶつかるOLとしては恵まれた体格とは言えないが、気持ちと当たりの強さで1年からずっと、5人のOLの一角を担ってきた。
昨年の主将で、ずっと井若の隣でプレーしてきた橋本亮・アシスタントコーチは言う。「1回生のころはオフの日のミーティングをサボって、電話したら『家の前の坂道走ってます』ってウソつくようなヤツでしたけど、今年はいい意味でわがままにやるようになりました。チームのためになると思ったら、場の雰囲気が悪くなるのも気にせず、意見を言ってます」
井若はいま、先輩に対しても「今年いちばん勝ちたいの誰やねん。4回生ちゃうんか」と奮起を求める。なぜ、そこまでするのか。「僕は1年でいきなり甲子園ボウル、ライスボウルまで連れていってもらいました。でも去年はリーグ最終戦で立命に負けて、何もなくなった。負けたらこんなに悔しいんやと思い知ったんです。負けてからでは遅い。1年からずっと出てる僕が、チームを変えなあかんと思ってます」
神戸大戦前の練習では、ミスに対して「次いこう」という声があちこちから出た。違和感を覚えた井若は練習後、「そのプレーが立命戦の最後のプレーでも『次いこう』って言うんか?」と問いかけた。「それでもダメでした。このままやったら立命どころか関大にも京大にもやられる」と危機感を強める。
井若は3年前、つらい別れを経験している。箕面自由学園高3年の夏、アメフット部の練習試合で、同級生でポジションも同じだった浦野遼平さんが熱中症で倒れ、亡くなった。井若と浦野さんは体格もほぼ同じで、常に励まし合いながら頑張ってきた。当初は気持ちの整理がつかなかったが、「俺はあいつの分までやる」と決めた。いまも常にその決意が胸にある。
「しんどいときは、あいつがあの練習試合をどんな気持ちでやってたんやろって考えます。そしたら『こんなとこで腐ってたらあかん』ってなる。僕は、もっと頑張ってる姿をあいつに見せなあかんのです」
フットボールの防具を入れるバッグにはいつも、高校時代の試合中に浦野さんと喜び合っている写真が入れてある。試合の直前はいつも、その写真を見て「いってくるわ」と言い、フィールドへ向かう。
「ほんまにフットボールが好きなヤツでした。あと2回日本一になって、報告するんです」。そのためには、自分の意見を言って嫌われ者になっても構わない。今日も明日も、井若大知は全力で生き抜く。(篠原大輔)