リクシルのLB安藤
アメリカンフットボールの社会人Xリーグ(朝日新聞社など主催)は、リーグ戦の第5節に入った。16日に4勝目を挙げたリクシル(中地区)には、ビッグプレーを連発しているLB(ラインバッカー)がいる。今春、アサヒ飲料から移籍してきた26歳の安藤彬(あきら)だ。
アメフットXリーグ特集
安藤の名を最初にとどろかせたのが、第2節(9月10日)のノジマ相模原(中地区)戦。21―21でタイブレーク方式の延長にもつれ込む熱戦になった。先攻、後攻を決めてゴール前25ヤードから攻撃を開始し、「先攻・後攻」の1セットで得点が多いチームの勝利となる。
先攻はノジマ。最初のプレーでパスを決められ、ゴール前9ヤードまで迫られた。次のプレー、ノジマのQBデヴィン・ガードナー(24)はミシガン大時代からのコンビであるWRジェレミー・ギャロン(26)へのタッチダウン(TD)パスを狙った。守備の第2列であるLBの安藤はこれを読み切り、ガードナーが置きにきたパスに飛びつく。エンドゾーン内でインターセプト。先攻のノジマを0点に封じ、安藤は両腕を突き上げて喜んだ。後攻のリクシルはキッカーの青木大介(31)が22ヤードのフィールドゴールを決めて3点を挙げ、熱戦をものにした。
第4節のIBM(東地区)戦でも試合終盤の逆転劇につながるインターセプトを決めた。さらにIBMの最後の反撃も、彼のインターセプトで断ち切った。「ノジマのときはギャロンに投げてくると思って下がってQBの目を見たら、思いっきりこっちを見てた。必死で飛びつきました。IBMの試合は、向こうが僕に向かって投げてくれたようなもんです。ラッキーでした」。安藤の笑顔に、今シーズンの充実ぶりがにじむ。
安藤は大阪府豊中市出身で、慶応大でフットボールを始めた。4年のときは主将を務めたが、目標の日本一は遠かった。2014年春に卒業して故郷に戻り、関西電力に入社。「社会人では絶対に日本一」と、クラブチームのアサヒ飲料(西地区)に入った。だが、かつて日本一に輝いたチームもいまや、パナソニックや関東の強豪には歯が立たない。昨年アサヒ飲料からリクシルへ移籍したDL平沢徹(28)を追うように、この春チームを移った。大阪で働き、週末は東京で練習に参加する。
安藤は慶大3年のときにDB(ディフェンスバック)からLBに転向し、すぐに試合に出たが、コーチに言われたことを実践するだけ。ランもパスも守るLBの面白さは、一切感じていなかった。変わったのは4年になって主将になり、チームの体制ががらりと変わってからだった。Xリーグで実績を積んで慶大へやってきたヘッドコーチのデービッド・スタントは、当たるときの手の使い方やステップの踏み方を一から教えてくれた。LBの面白さが分かり始めた。
そしてその夏、オービック(中地区)が開催するフットボールクリニックに参加したとき、「ディフェンスの目的はボールキャリアーをタックルすること」と、強く言われた。そんな当たり前のことを、安藤は忘れていた。自分をブロックしにくる選手をどう処理するかばかり考えて悩んでいたが、その後ろでボールを持つ選手をタックルすることを第一に考えると、自然とブロッカーを処理できるようになった。世界が変わり、LBの面白さ、フットボールの面白さがわかった。
リクシルの森清之ヘッドコーチ(51)はLBとしての安藤を絶賛する。「スピードがあるし、ヒットもできる。頭もいいし、負けん気が強い。ヤツが入ったことは、ウチのディフェンスにとって相当大きいです。身体能力が高いだけじゃなくて、ここ一番でボールを狙うプレーができる。今シーズンここまでのビッグプレーは偶然じゃないと思います」
安藤にはここまでの人生で一つ、心残りがある。大阪・北野高時代は野球部だったが、朝練や昼休みの素振りに意味を見いだせず、放課後の練習以外は参加しなくなった。チームメートから反感を買い、「そんなんやったら、やめてくれ」と言われた。2年夏の大阪大会を前に、退部した。「やめてから後悔しました。やっぱり高校野球って、最後の夏までやりきってなんぼですから。朝練がムダやと思ったら、ちゃんと話し合えばよかった。ああ、青春したかったなあ」
白球を追い切れなかった無念も胸に、日本一へ邁進(まいしん)する。(篠原大輔)