多摩川精機の本社建物は戦前の建築。玄関にある部品ケースの前に立つ萩本範文さん=長野県飯田市
長野県飯田市は2006年、地域で航空宇宙産業に取り組むと宣言した。それから10年、2人の社長経験者が「伝道師」のように地元を走り回り、市は「黒衣」として支えてきた。
飯田は戦後、精密加工部品の生産拠点として成長した。その原点をかたちづくったのが、伝道師のひとり、萩本範文さん(72)が16年間にわたり社長を務めた多摩川精機だ。同社がつくるモーターの回転数を測る「特殊センサー」は、トヨタ自動車向けを皮切りに、世界のハイブリッド車の多くに供給されている。
1938年、飯田の近郊で生まれ育った萩本さんの大叔父が東京・蒲田で創業した。明治から昭和にかけての飯田は生糸生産が盛んだったが、世界恐慌をきっかけに海外と取引する生糸価格が暴落。地域の経済は疲弊し、故郷を捨て「満蒙開拓」に向かう人が数多くいた。大叔父はそんな地元の窮状を救おうと、飯田に2千人の工場を建て軍用機の油量計をつくった。
戦後は、工場で積み上げたノウ…