茨城県への案内を終えてJR小山駅前に到着し、集まった人たちに手を振る天皇陛下とベルギーのフィリップ国王。後ろでは皇后さまとマチルド王妃が腕を組み、親しげに話している=10月12日午後2時54分、栃木県小山市、北村玲奈撮影
「この曲は皇太子が生まれた時に天から降ってきたように作ったんです」。
皇族方の素顔
特集:皇室とっておき
10月13日、東京都千代田区でベルギーのフィリップ国王夫妻が天皇、皇后両陛下らを招いたコンサートが開かれました。アンコール曲として演奏されたのは、皇后さまが作曲した「おもひ子」。皇后さまが皇太子妃時代、詩人で小説家の故・宮崎湖処子(こしょし)さんの詩をもとにつくった曲です。浩宮さま(皇太子さま)の子守歌として口ずさんだことがきっかけで生まれたそうです。ベルギー側のサプライズ。皇后さまは演奏者の一人に冒頭のように話したそうです。
曲が流れた瞬間、驚いた様子を見せていた皇后さま。ベルギー側の粋なはからいに、演奏後、立ち上がった天皇陛下がうれしそうな様子で皇后さまを促していたのが印象的でした。冒頭の演奏者によると、コンサート終了後、皇后さまは「アマチュアの曲なのに、弾いてくださってとてもうれしいです」などと話していたそうです。
10月11~13日、国賓として来日したベルギー国王夫妻を歓迎する様々な皇室関連行事が行われました。
最初の行事は11日午前、皇居・宮殿の東庭で開かれた歓迎行事でした。宮内庁の秋元義孝式部官長の先導のもと、陛下と並んだ国王が赤じゅうたんの上をゆっくりと進みます。後ろにはマチルド王妃と皇后さま。さらに皇太子ご夫妻、安倍晋三首相夫妻が続きました。
国王が中央の台に進み出ると、「敬礼―」という合図に続き、ファンファーレが響きました。国王は両国の旗を振って歓迎する子どもたちの前を通り、儀仗(ぎじょう)隊の栄誉礼を受け、巡閲しました。その様子を三権の長や国会議員らが見守ります。普段は静寂な東庭が、厳かで華やかな雰囲気に包まれました。
国賓とは、5ランクに分かれる外国の要人の中でも最上級の待遇を受ける人たちで、国王や大統領などが当てはまります。近年では2014年にアメリカのオバマ大統領やオランダのウィレム・アレキサンダー国王夫妻が、15年にフィリピンのアキノ大統領が国賓として来日。今回のベルギー国王夫妻は、日本とベルギーの外交関係樹立から150年を迎えるのに合わせて政府が招待しました。
主な宮内庁関連の行事としては①宮殿東庭での歓迎行事②宮殿での両陛下との会見③両陛下主催の宮中晩餐(ばんさん)会④両陛下による茨城県への案内――があります。
宮殿の「正殿竹の間」で開かれた国王夫妻と両陛下の会見では、皇室とベルギー王室の交流などについて十数分間、会話が交わされました。国王は、最初の訪日が1985年の25歳の時だとし、「両国の王室、皇室の交流の深さが印象づけられました。当時、昭和天皇にもお会いしました」と話したそうです。
夜には、宮殿の「豊明殿(ほうめいでん)」で宮中晩餐会が開かれました。皇太子ご夫妻や皇族方のほか、ベルギー王室と交流の深い両陛下の長女・黒田清子さん夫妻、安倍首相夫妻や両国の政府関係者、バイオリニストら多彩な顔ぶれがそろいました。出席者は170人。オバマ大統領の時の168人を超え、平成に入って最多となりました。
目玉の一つが皇族方のファッションです。男性は燕尾(えんび)服(ホワイトタイ)や紋付き羽織はかまなど、女性はロングドレスや白襟紋付きなどと指定され、勲章着用とされています。国王や陛下ら男性は黒の燕尾服が大半ですが、女性は色鮮やかなドレスや着物と華やかです。
この日の皇后さまは上半身は紺、下半身は白のドレスで気品あふれる装い。王妃はキャメルのロングドレスが長身に映えます。秋篠宮ご夫妻の長女眞子さまと次女佳子さまは、エメラルドグリーン系のドレスにティアラとネックレスを合わせ、まるでおそろいのよう。雅子さまはアイボリーの生地にレースをあしらったデザインのドレスでフェミニンな印象に。紀子さまはシャンパンゴールド系のドレスで華やかさの中にも落ち着いた印象を受けました。黒田清子さんは花柄の着物姿で登場し、しっとりとした雰囲気をまとっていました。
陛下の歓迎のお言葉や国王のあいさつ、乾杯などに続き、食事が出されます。隣接した部屋では宮内庁式部職楽部がオーケストラの生演奏をし、優雅な雰囲気を演出します。テーブルにはベルギーの国旗の色である黒や赤、黄色のバラなどが飾られ、菊の紋がついた皿やナイフ、フォークが並びます。椅子の背もたれにも菊の紋がついていました。
出される料理は、両陛下や皇太子ご一家の食事を担当する宮内庁大膳課が手がけました。この日のメニューは、マツタケなどを使った秋風のコンソメスープ「清羹(せいかん)」に、金目鯛(きんめだい)の切り身をカレー風味で焼いた「金目鯛牛酪焼(ぎゅうらくやき)」、御料牧場産の羊のもも肉をローストした「羊腿肉蒸焼(ようたいにくむしやき)」、「サラダ」、「アイスクリーム(富士山型)」、メロンと柿の「果物」です。中でもアイスクリームは恒例メニュー。富士山の形をした型の上部にバニラを、裾野に抹茶のアイスクリームを入れて作ったそうです。飲み物は、フランス・ブルゴーニュ地方の白ワイン(モンラッシェ1998)やフランス・ボルドー地方の赤ワイン(シャトー・ムートン・ロートシルト1994)、シャンパン(モエ・エ・シャンドン ドン・ペリニヨン1998)、日本酒などが振る舞われました。
翌12日は両陛下が国王夫妻を茨城県へ案内しました。ベルギーのメッヘレン市と国際親善姉妹都市になっている結城市を訪れ、郷土芸能や伝統工芸品を鑑賞しました。宮内庁によると、出発前の東京駅で、両陛下は前夜の疲れも見せず、にこやかに国王夫妻を出迎え、親しげに言葉を交わしたそうです。関係者によると、新幹線の中では両陛下と国王夫妻が向かい合って座り、会話が弾んでいたといいます。
到着した結城市民情報センターでは、出迎えた約6千人から拍手が鳴りやまないほどの熱烈な歓迎を受けました。歓迎セレモニーでは、市立結城中学校吹奏楽部の演奏や、地元の神社に伝わる神楽が披露されました。「サン・トワ・マミー」を演奏した同中学校の山崎星南さん(3年)は、王妃から「本当に素晴らしい演奏でとても感動しました。頑張って下さい」と伝えられ「たくさん練習してきてこんな最高な舞台で演奏できてうれしい気持ちでいっぱいです」と感激していました。
続いて、ユネスコ無形文化遺産に登録されている結城紬(ゆうきつむぎ)の地機(じばた)織りの実演を見学した国王夫妻は興味津々の様子でした。反物を見た王妃は「so delicate(とても繊細)」と思わず一言。その後も王妃が桐下駄(きりげた)を手に取ったり、国王が通訳を介して「家でお使いになるんですか」と質問したり。桐たんすも見て回り、陛下が国王に「(桐は)非常に軽い木なんですね。非常に早く大きくなる」と説明する場面もありました。
訪問中、皇后さまが王妃の腕に手を添えて歩く様子がしばしば見られました。王妃が皇后さまの歩調に合わせてゆっくり歩き、長身の王妃が皇后さまに顔を近づけるようにして会話する様子は、さながら母と娘のようでした。
翌13日は、冒頭で紹介した国王夫妻主催の答礼コンサート。両陛下や皇族方が出席しましたが、着物姿の女性皇族が目立ちました。皇后さまは裾に向かって白いグラデーションが入った灰色の着物で出席。薄緑の着物姿の眞子さまと、ピンクの着物姿の佳子さまは出迎えた国王夫妻にひざを曲げ、握手をして笑顔であいさつしました。
印象的だったのは、皇太子ご夫妻が出迎えた国王夫妻と比較的長い間話し込んでいたことです。親密な様子で、時折笑い声も起きていました。実は、ご夫妻は1999年、皇太子時代の国王の結婚式に参列しており、非常に懇意な間柄だそうです。
コンサート後はいよいよお別れのあいさつです。宮内庁によると、国王夫妻と両陛下との間では次のようなやりとりがあったそうです。
陛下「今回、国賓として訪日頂き感謝します。お疲れになりませんでしたか」
国王「大変素晴らしい訪日です。行く先々で多くの人たちに温かく歓迎して頂きました」
陛下「今回は何人同行されてるんですか」
国王「220人です。ビジネス、学会、文化関係の人たちが同行して日本の人たちと交流を深めています。自分としてもこのような交流を支援したいと思います」
陛下「そのような交流が行われていることはとても良いことと思います」
別れ際、エレベーターを待っている間、王妃から「結城市をご一緒に訪問し、共に過ごせたことは大変光栄でした。お気遣いに感謝します。また、宮中晩餐会も大変素晴らしかったです」と感謝の意が伝えられました。
「次回はぜひお子さまを連れて日本にいらしてください」。両陛下は別れ際、そう伝えました。限られた期間でしたが、皇室ならではの最上級のおもてなしで、両国の関係はさらに深まった印象を受けました。当初は緊張からかやや硬さが見られた国王夫妻も、最後は親密な様子で名残惜しそうに両陛下を見送る姿が印象的でした。改めて「おもてなし」の意義を実感した今回の取材でした。(宮内庁担当 多田晃子)