丸っこいケーキのような生地にクリームが挟んであるお菓子。千葉県出身の記者(40代)には「ブッセ」という名前が思い浮かぶが、九州では「ヤキリンゴ」として知られる「パン」らしい。福岡市出身の同僚(30代)は「高校時代に購買でよく買った」と声を弾ませ、北九州市出身の上司(50代)は「おやじがよく土産に買ってきてくれたなぁ」と遠い目になる。誰もが懐かしがるヤキリンゴ。発祥の地とされる長崎で再び注目されている。
ヤキリンゴを九州一円に広めたのは福岡県大野城市に本社があるリョーユーパンだ。1962年に販売を始め、現在、店頭に並ぶ商品の中では最も古い。かつては1個売りだったが、今は4個入り。「リンゴが入っていない」との声も寄せられるが、クリームにはリンゴ風味がついている。
社史には「1962年 『ヤキリンゴ』大ヒット」とある。「もともと長崎の東洋軒が作っていたもので、オリジナルにはクリームと一緒に焼きリンゴが入っていたらしい」と記載されている。
長崎市の東洋軒は2014年に閉店したが、長崎県時津町に本店がある「ぱんのいえ」が味を受け継ぎ、「焼(やき)りんご」として長崎市内など4店舗で販売している。製造には繊細さが必要で、東洋軒の職人を交えて何度も試作を重ねた。味を一定に保つため生地作りには小型ミキサーを使い、1回に作れるのは28個だけ。
店では客から「お昼休みに走って買いに行った」など、昔話を聞くことも多い。時津店店長の森田裕美子さんは「お客さんの思い出も受け継いでいる責任を感じます」と話す。
そのヤキリンゴに新たな動きが出てきた。10月3日、長崎港(長崎市)に高速船で1時間40分かけて長崎県新上五島町からヤキリンゴが運ばれてきた。町内の3店が注文に応じて長崎港に届けるサービスがこの日から始まったのだ。
発案者は今春、町の起業支援施…