女児の髪を切る美容師の赤松隆滋さん=京都市伏見区、筋野健太撮影
髪を切る経済的余裕や機会のない子どもが見た目で不利益を受けないよう、無料でカットできる。そんな活動に京都市のNPOなどが取り組んでいる。
特集「子どもと貧困」
京都市伏見区の美容室「ピースオブヘアー」。小学6年の女児(12)は、肩下10センチ以上に髪が伸びた状態で来店した。髪を切るのは10カ月ぶりという。美容師の赤松隆滋(りゅうじ)さん(42)は「絡まってるね。先に流そう」と促し、まずシャンプー。髪を20センチカットした。女児はあまり話さなかったが、サラサラになった髪を何度も触った。
「普段髪をきちんと洗えていないと思う。利用する子はみんなシャイだけど、うれしそうな顔が鏡から見える」と赤松さんは言う。
小学生は通常2160円だが、店は子どもから、代金でなく「ハピハピカットチケット」を受け取る。
チケットは、NPO法人「そらいろプロジェクト京都」が発行する。赤松さんが理事長を務め、発達障害の子らの髪を切る活動をしている。
子どもたちはハピハピカットをPRする缶バッジ作りなどを手伝い、NPOから報酬としてチケットをもらう。NPOは、店や赤松さんらの講演先、ウェブサイトで缶バッジ(1個500円)を販売。売り上げと寄付からカット代金を店に払う。講演で50個以上売れることもあるという。
子どもを店に紹介するのは、大津市で困窮家庭の子の居場所づくりをしている幸重(ゆきしげ)社会福祉士事務所の幸重忠孝さん(43)。2年前から9人を紹介してきた。
最初は、高校を1学期で中退した少年。小中は不登校で、ほったらかした髪は肩まで伸びていた。幸重さんは「清潔感も覇気もなく見え、仕事の面接もうまくいかないのでは」と心配した。NPOが高齢者施設へ訪問カットに行く際、車いすを押す仕事を少年に手伝ってもらい、そのお礼としてカットを提案した。
少年は「別にええわ」と乗り気でなかった。カット後、周りに褒められ、冗談を言い始め、老人ホームを手伝うようになった。「髪の毛を切ると気持ちが上がって学校に行きたくなったり、人と交流したくなったりする」と幸重さん。
赤松さんは「地域の人が買った缶バッジ代が、地域で困っている子どものカット代になるのが理想。子どもをつなぐ地域の支援団体と店が協力し、この仕組みが各地に広がってほしい」と話す。(中塚久美子)