「巨人契約金」訴訟の司法判断
プロ野球・読売巨人軍の新人契約金をめぐる朝日新聞の報道に関して、巨人軍は22日、朝日新聞社の「報道と人権委員会」が2012年7月に「報道と取材に問題なし」とした見解およびそれを掲載した記事を是正するよう求める申し立てを同委員会に行った。
朝日新聞の12年3月の一連の記事をめぐり、委員会は、巨人軍の申し立てを受けて審理し、同7月12日、結論にあたる見解を出し、翌13日付の朝日新聞で報道された。巨人軍側は申立書で3月の報道とは別に、7月の報道でも名誉を毀損(きそん)されたと主張している。
委員会は朝日新聞の取材・報道による人権侵害があった場合、被害救済するために審理を行う社内設置の第三者機関で、社外の専門家、識者3人で構成する。同委員会は今後、今回の申し立てを受けて審理するかどうか、決める。
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巨人軍は22日、新人契約金をめぐる訴訟の東京高裁判決と最高裁決定を朝日新聞が報じた際のコメントについて、「事実を曲げ、巨人軍の名誉を毀損(きそん)する」として、朝日新聞社に対してコメントの削除を求める申し入れをした。
同高裁は、記事の一部は名誉毀損が成立するとしたものの、記事の「相当部分を占める事実には名誉毀損は成立しない」と判断。最高裁が朝日、巨人双方の上告を受理しない決定をしたことからそのまま確定した。
高裁が「相当部分を占める事実」としたのは、巨人軍が申し合わせ額を上回る契約金を支払う契約を結んでいたと報じた部分。本社は「記事の主要部分について、判決は真実だと認めました」などとコメントを発表している。
■確定判決のポイント 「記事の相当部分、名誉毀損にあたらず」
巨人軍が損害賠償などを求めた民事訴訟では、記事で取り上げた6選手との契約について「真実性がある」とする一方、一部の記載で名誉毀損(きそん)が成立するとした司法判断が確定した。これまでの経過と判決のポイントを整理した。
読売巨人軍の新人契約金報道をめぐっては、球団側が記事で名誉を傷つけられたと主張し、朝日新聞社の「報道と人権委員会」や民事訴訟で審理された。
対象とされたのは、2012年3月15、16日付朝刊記事。巨人軍が1997~2004年度、12球団で申し合わせた新人契約金の最高標準額(1億円プラス出来高払い5千万円)を超える契約を6選手と結び、合計額は36億円、超過額は27億円だったなどと報じた。
同委員会は12年7月に見解を出し、選手個人の契約の内訳、経緯、受領金額などを詳細に検討し、すべて正しいと認定した。
巨人軍は見解を不服として提訴。「最高標準額は契約金の上限ではなかった」「36億円には出来高払いの報酬も含まれており、これを合わせて『契約金』としたのは誤りだ」などと主張し、「記事で『金権野球』と非難され、社会的評価が低下した」とも訴えた。
15年9月の一審・東京地裁判決は「出来高払いの報酬も、条件達成がある程度見込まれれば、広義の契約金と解される」と指摘。「これを含めた36億円は最高標準額を明らかに超過し、記事は重要な点で真実だ」と判断した。
今年6月の二審・東京高裁判決もこの点は「真実性の証明がある」と認定。巨人軍の契約を金権野球と報じたことも、「真実を前提とした論評の範囲を逸脱しない」として、名誉毀損(きそん)にはならないとした。
一方で二審判決は、他球団の新人選手の契約で日本野球機構(NPB)が厳重注意処分とした例があることを示した部分について「(この点を)NPBに取材せず、今回の(巨人軍の)事例が『同じ厳重注意処分に相当する』という事実を示した」と指摘。「処分を受けた他球団の事例は、巨人軍の事例とは違う」として、編集委員の論評記事も合わせて名誉毀損に当たると判断した。
高裁は一審判決を変更し、朝日新聞社に330万円の支払いを命じた(巨人軍の請求額は5500万円)。巨人軍が求めた謝罪広告の掲載は、名誉毀損にあたらないとした選手の契約についての記載が「記事の相当部分を占める」ことを理由に必要ないとした。
最高裁は11月、巨人軍と朝日新聞社の上告をいずれも退け、二審判決が確定した。司法判断が確定したことを受けて、朝日新聞社広報部は「巨人軍が6選手と最高標準額を大幅に上回る契約金を支払う契約を結んでいた、とする記事の根幹部分は真実だと認められた、と受けとめています」とコメントした。