年末の買い物客らでにぎわう築地場外市場=29日午後、東京都中央区、北村玲奈撮影
昨年で最後のはずだった歳末商戦を、築地市場(東京都中央区)が再び迎えている。豊洲市場(江東区)への移転は早くても1年後。30日まで営業する市場の水産仲卸業者らはにぎわいの中にも複雑な思いを抱え、それぞれの師走と向き合っている。
特集:築地―時代の台所
仲間と会えば「金がねえよ」と笑いあう。「でもその先に話が広がることはない」と生鮮マグロが主体の仲卸を営む吉野悦松さん(79)はいう。「飲みに行っても店の実情は話さないし、聞かない。不用意に触れられないほど、みな傷は深いんだよ」
築地と間取りが違うため新調せざるを得なかった冷蔵庫2台、「帳箱(ちょうばこ)」と呼ばれる経理場。カバーをかけたままの調度が並ぶ豊洲の新店舗は、電気さえ通れば明日からでも営業できる。
共に働く49歳の息子の将来を思い買い足した1店舗分の営業権を含め、投じた費用は約3千万円。すべて借金で用意した。移転延期が発表されたのは、その金で請求書の束をやっとさばいた8月末のことだった。
返済は月約80万円。市場を通さない産地の直取引に客を奪われ、経営は楽ではない。息子に迷惑をかけたくないと、自分の給料をほぼ返上して店を支えるが、「いつ限界がくるか」と嘆息する。12月は年越し用の仕入れ額が膨らむ。売り上げの入金は遅い顧客だと60日後で、時間差がつらい。都のつなぎ融資を申請したが、上限は1千万円。「焼け石に水」と憤る。
風評被害を思えば「豊洲ではやっていけない」と正直、思う。だが息子ともめったに将来の話はしない。「先が見えないのに、慰めあったって仕方ないじゃない」。ただ、これだけは言った。「苦労は全部俺が背負う。孫にだけは絶対にこの仕事、継がせるなよ」