網紅の張秋瓊さん(左)と劉嶼辰さん。スマートフォンが中継カメラになる=上海市内、冨名腰隆撮影
「直播(チーポー=生放送)はどこでだってできるのよ。早速やってみましょうか」
昨年12月、上海市内のホテルロビーに現れた張秋瓊さん(21)はそう言うと、慣れた手つきで三脚を取り出し、スマートフォンを設置した。2分で準備が整い、スタートの合図もなく生放送は始まった。
「みんな元気? じゃあ今日のファッションを紹介していくね。この黒のフレアパンツはラインがきれいで…」。画面に語りかけると、たちまち「かわいい!」「私も着たい!」などとコメントが返ってきた。
張さんは、35万人のフォロワーを有する網紅(ワンホン=ネットアイドル)だ。網紅は個性や独自のアイデアを生かし、SNSを通じて中国で爆発的な人気を誇る。生放送の配信専用アプリが、300以上もある。
1年前までは金融系会社の総務アシスタントとして働く普通のOLだった。地味な制服を着て、毎日午前9時から午後5時まで私語は禁止。疲れ切って週末を迎え、外出する意欲もなく、友達とも会わない。そんな生活に嫌気がさした頃、網紅の存在を知った。「流行すら追わなくなった自分を変えられるかも」。そう思い立ってから飛び込むまでは早かった。
現在は毎日2~3回、生放送でお気に入りの化粧品や衣服を紹介する。人気を当て込んだ韓国の化粧品や英国のジュエリーなど、この半年で10のブランドから宣伝依頼が舞い込んだ。活躍はネットの世界を越え、雑誌やテレビに出る機会も増えている。「こんな生活は想像できなかった。網紅になって本当に幸せです」
中国はインターネット利用者が7億人を超え、電子商取引も伸び続けている。経済紙系のシンクタンク「第一財経商業データセンター」は、2016年の中国ネット小売市場が5兆2千億元(約88兆2千億円)に達するとの見通しを示した。全世界の47%を占め、北米市場の2倍強の規模だ。
ネット小売市場と個人の発信力…