「Yes We Can(私たちは出来る)!」。言葉の力で人々を魅了したバラク・オバマ米大統領。2期8年の任期がまもなく幕を下ろします。黒人初の米大統領が残した「言葉」を、当時の出来事とともに振り返ります(肩書は当時のまま)。(守真弓、杉崎慎弥)
特集:トランプ次期米大統領
特集:オバマ大統領
特集:核なき世界 模索の8年
■2009年1月20日
「今求められているのは、新たな責任の時代だ」
就任式で演説するオバマ米大統領=ロイター
(米ワシントンで開かれた就任式で)第44代大統領に就任した時の就任演説。大群衆を前に「米国が生きながらえてきたのは、指導者の巧みさや思想だけによってではなく、国民が先人の理想に誠実で、(独立宣言などの)建国時の文書に忠実だったからだ」と指摘。イラク戦争など、「テロとの戦い」を優先させて単独行動主義と言われたブッシュ政権時代に傷ついた米国の伝統的な価値観への回帰を呼びかけた。
◇当時の出来事
〈ESTA開始〉 米国にビザを持たずに短期滞在(90日以内)する場合、ネットで事前申請を義務づける電子渡航認証システム(ESTA)の運用が始まる(1月12日)
〈朝青龍、復活V〉 大相撲初場所で3場所連続休場から復帰、5場所ぶり23度目の優勝(1月25日)
〈米アカデミー賞で日本作品ダブル受賞〉 「おくりびと」が外国語映画賞、「つみきのいえ」が短編アニメーション賞(2月22日)
■2009年4月5日
「核のない、平和で安全な世界を」
プラハ城で開かれた歓迎セレモニーに出席したオバマ米大統領=ロイター
(チェコ・プラハ訪問の際の演説で)「核を使用した唯一の保有国としての道義的責任」にふれ、「核のない、平和で安全な世界を米国が追求していくことを明確に宣言する」と明言。核廃絶は「すぐに到達できる目標ではない」と、核抑止力を当面維持する方針も示したが、「『イエス・ウィ・キャン(我々はできる)』と言おう」と、時間をかけてこぎつける考えを示した。
◇当時の出来事
〈WBC連覇〉 野球の国・地域別対抗戦で、日本が初回に続き第2回大会も制した(3月23日)
〈千葉知事選で森田健作氏が初当選〉 民主党などが推薦する候補者に約38万票差で勝利(3月29日)
〈天皇・皇后両陛下、ご成婚50年〉 各地で祝賀行事が開かれた(4月10日)
■2015年3月7日
「我々の行進はまだ終わっていない」
アラバマ州セルマの橋を歩く、オバマ米大統領=ロイター
(アラバマ州セルマで開かれた「血の日曜日」50周年を記念する式典で)投票する権利を求めて行進しようと橋を渡っていたアフリカ系米国人らが白人警察官から暴行を受けた「血の日曜日」(1965年)の現場で、「我々の行進はまだ終わっていないが、次第に近づいている」と演説。「目や耳、心を開けば、この国の人種の歴史がまだ、我々に長い影を落としていることが分かる」と国内に残る人種問題の改善を訴えた。
◇当時の出来事
〈仏週刊新聞「シャルリー・エブド」襲撃〉 イスラム過激派の容疑者2人に記者ら12人が殺害された(1月7日)
〈過激派組織ISが殺害映像〉 ジャーナリストの後藤健二さんを殺害したとする映像を公開(2月1日)
〈錦織圭が世界4位に〉 自己最高を更新。1995年のクルム伊達公子に並び日本選手の最高位に(3月2日)
■2011年1月12日
「私たちには分断よりも結束の力が強く宿ると信じる」
追悼式で演説するオバマ米大統領(左)=ロイター
(米アリゾナ州で開かれた銃乱射事件の犠牲者追悼式で)女性下院議員の政治集会で男が銃を乱射し、6人が死亡した事件のあったアリゾナ州トゥーソンを訪問。犠牲者らに哀悼の意を述べるとともに、「彼らの犠牲は、我々が公の場の会話で、もっと礼節を持つよう導いてくれているのだ」と述べ、米国社会が党派対立を超え、悲劇的な事件を乗り越えて結束していくよう訴えた。
◇当時の出来事
〈チュニジア政権崩壊〉 デモ激化でベンアリ大統領が国外脱出、23年の強権支配に終止符。「アラブの春」先導(1月15日)
〈小沢一郎・民主党元代表を強制起訴〉 検察審査会の議決による政治家の起訴は初めて。陸山会の土地取引事件。12年に無罪確定(1月31日)
〈春場所中止を決定〉 八百長問題を受けて日本相撲協会(2月6日)
■2016年5月27日
「核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」
広島市の平和記念公園で演説するオバマ米大統領(中央)と安倍首相=代表撮影
(広島の平和記念公園で)現職の米国大統領として初の被爆地訪問。原爆死没者慰霊碑に献花し、平和記念資料館(原爆資料館)も視察した。演説では、米国が原爆を投下したことの謝罪や、是非には触れなかったものの、招待された被爆者を前に「1945年8月6日の記憶を薄れさせてはならない」と訴え、「核なき世界」に向けて取り組む姿勢を改めて強調した。
◇当時の出来事
〈東京五輪・パラリンピックのエンブレム決定〉 藍色の四角形を使った「組市松紋」。旧エンブレムの白紙撤回で改めて選考(4月25日)
〈伊勢志摩サミット開幕〉 主要7カ国(G7)首脳会議が三重県志摩市で。27日に経済政策強化の首脳宣言(5月26日)
〈イチローが日米通算4257安打〉 参考記録ながら、ピート・ローズが持つ大リーグ記録4256安打を抜く(6月15日)
■2009年12月10日
「それ(非暴力の理想)を捨てることは、人類の最善、倫理的な羅針盤を捨てることだ」
ノーベル平和賞の授賞式が開かれたホテルのバルコニーで手を振るオバマ米大統領(右)とミシェル夫人=ロイター
(ノーベル平和賞授賞式で)「正義として持続する平和」と題した演説。武力に頼らない世界平和への理想を捨ててはならないなどと強調。その一方で、当時はアフガニスタンとイラクという二つの戦争を抱える「戦時大統領」であったことの正当性を主張する場面もあり、「武力行使は不可欠なだけでなく、道徳上も正当化されることもある」と現実主義的な主張もした。
◇当時の出来事
〈英国人女性殺害事件で容疑者を逮捕〉 顔を整形手術し、2年半の逃避行を続けたが大阪市のフェリー乗り場で身柄を確保(11月10日)
〈ファミリーマートがam/pm子会社化〉 10年3月にも合併すると発表(11月13日)
〈男子ゴルフの石川遼が史上最年少の賞金王〉 シーズン4勝で1億8352万円余(12月6日)
■2011年11月17日
「アジア太平洋、最優先」
豪州議会で演説するオバマ米大統領=ロイター
(オーストラリア・キャンベラの同国議会で)アフガニスタンとイラクからの米軍撤退を踏まえ、今後の安全保障政策でアジア太平洋地域を「最優先」に位置づけると宣言。米国は「太平洋国家であり、ここにとどまる」と述べ、地域の秩序作りを主導する決意を表明。世界人口の約半数を抱えるこの地域が「今世紀の特徴が紛争か、協調かを大きく決定づける」との基本認識を示した。
◇当時の出来事
〈DeNAが横浜ベイスターズ買収を発表〉 球団株の66・92%を65億円でTBSから取得(11月4日)
〈オリンパスで損失隠しが発覚〉 財テク失敗による1千億円以上の損失をファンドへの「飛ばし」で隠していた(11月8日)
〈大阪維新の会がダブル選で圧勝〉 大阪市長選で橋下徹氏、大阪府知事選で松井一郎氏が勝利(11月27日)
■2009年6月4日
「世界中のイスラム教徒と米国の間に新たな始まりを」
カイロ大学での演説で手を振るオバマ米大統領=ロイター
(エジプト・カイロ、カイロ大学での演説で)イスラム世界に対して、ブッシュ前政権の政策との決別を宣言。イスラム過激派や中東に対する外交政策を広範に説明し、「相互の尊敬に基づく新たな始まりを求め、ここに来た」と訴えた。「冷戦時代、民主的に選ばれたイラン政権の転覆に米国は役割を果たした」と自国の非にも触れ、「多くの問題について前提条件なしに話し合う用意がある」と呼びかけた。
◇当時の出来事
〈忌野清志郎さん死去〉 日本を代表するロックシンガー。58歳(5月2日)
〈北朝鮮が地下核実験〉 2006年10月に続いて(5月25日)
〈GMが経営破綻(はたん)〉 米自動車大手ゼネラル・モーターズが連邦破産法11条の適用を申請(6月1日)
■2016年3月22日
「米州に残された冷戦を終わらせる」
大リーグのタンパベイ・レイズとキューバ代表の試合を観戦するオバマ米大統領とラウル・カストロ国家評議会議長(左)
(キューバ・ハバナを訪問した際の国民向けの演説で)現職米大統領として88年ぶりにキューバを訪問。米国が続けてきた封じ込め政策が「21世紀には意味をなさず市民生活を苦しめている」として、対キューバ制裁を緩和し、両国が経済協力を進めることの重要性を訴えた。「人権は世界共通のものだ」とも述べ、キューバにおける言論の自由や民主化の必要性も訴えた。
◇当時の出来事
〈プロ野球巨人で野球賭博〉 高木京介投手の関与が判明。渡辺恒雄最高顧問らの引責辞任を球団が発表(3月8日)
〈北海道新幹線開業〉 新青森―新函館北斗間149キロが開業。九州から北海道まで新幹線で移動できるように(3月26日)
〈台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープ買収を決議〉 出資額は3888億円。シャープは大手電機で初めて外資傘下に(3月30日)
■2017年1月10日
「Yes we did(我々は成し遂げた)」
退任演説をするオバマ米大統領=ロイター
(米国イリノイ州シカゴでの退任演説で)通常はホワイトハウスで行う大統領としての最後の演説の場として、弁護士活動や貧困層を救う市民活動を始め、自身の政治活動の原点であるシカゴを選んだ。演説では、「米国は改善し、強くなった」と述べ、医療保険制度改革(オバマケア)やキューバとの国交回復などの実績を強調。トランプ次期大統領の排他主義的主張を踏まえて、多様性が米国の強みであると指摘するのも忘れなかった。
◇当時の出来事
〈米大統領選投開票、トランプ氏が勝利〉 共和党の実業家ドナルド・トランプ氏が民主党のヒラリー・クリントン前国務長官を破る(2016年11月8日)
〈コロンビア政府と左翼ゲリラの和平合意を議会が承認〉 国民投票で否決後、内容を修正。52年間の内戦に正式に終止符(2016年11月30日)
〈韓国の朴槿恵大統領の弾劾(だんがい)訴追案を国会が可決〉 朴氏の大統領権限は停止され、首相が職務を代行。憲法裁判所が弾劾するかを判断する(2016年12月9日)