松本明美さん(右)と田中健太さん=大阪府富田林市喜志町3丁目
「お帰り」。子どもたちが来ると、そう声をかける駄菓子屋のおばちゃんが大阪府富田林市にいる。先生や親に言えないことも、おばちゃんにはつい相談してしまう子も。そんな「居心地のよさ」にひかれた元引きこもりの大学生が3年余り店に通い、ドキュメンタリー映画「ぼくと駄菓子のいえ」を作った。
近鉄喜志駅そばにある駄菓子屋「風和里(ふわり)」。3学期が始まったばかりの今月中旬の夕方、10坪ほどの店は学校帰りの子どもたちでにぎやかになる。「今朝はさぶかったやろ」。声をかける松本明美(あけみ)さん(79)は子どもたちから「あけみちゃん」と呼ばれている。ある女の子が100円玉を差し出し、言った。「あけみちゃん、ポップコーン!」
明美さんが亡き母の家を改装し、駄菓子屋を開いてから約20年。「古里のように戻れる場所にしよう」。3人の娘と話しあい、店名に「里」の字を入れた。開店間もないころの「常連」は今や成人し、家庭も持つように。「私のこと覚えてる?」と子どもを連れてやって来る人もいる。
先生や親との葛藤、友人や恋愛の悩み、進路……。明美さんは子どもたちの話に耳を傾けては励まし、時には叱った。「今の子どもはじっくり話を聞いてくれる相手がいない。『心のさみしさ』があるねん」と明美さんは言う。店を一緒に切り盛りする次女・圭永(よしえ)さん(52)も子どもたちに慕われ、成人式を今年迎えた女性からは「ここまで来れたのは、よっちゃんのおかげ。よっちゃんがいてなかったら、思いっきり道を踏み外してたと思う」というメッセージが届いた。
そんな「風和里」の近くに住む大阪芸術大生の田中健太さん(23)は2011年、たまたま店に立ち寄った。中学の3年間、ほとんど自宅の部屋に引きこもっていた田中さん。明美さんらに勇気づけられていく子どもたちの姿に、「不器用でも必死に生きていく」ことの大切さを感じた。翌12年からほぼ連日、田中さんは店に通って撮影。仲良くなった子どもたちへインタビューも重ねた。
約200時間分の映像を74分…