覚醒剤の密輸事件をめぐり、東京高裁が「一審は証拠の内容を誤解した」と指摘して裁判のやり直しを命じた裁判員裁判で、東京地裁は17日、シンガポール国籍の男性被告(68)に無罪判決を言い渡した。大野勝則裁判長は「被告が違法薬物だと認識せずに運んだ可能性がある」と述べた。
男性は、2013年9月にインドで覚醒剤約9キロを隠したキャリーケースを飛行機に積み込み、日本に密輸しようとしたとして覚醒剤取締法違反などの罪で起訴された。弁護側は「過去にも同じ方法で布製品などを運び、今回も違法な物はないと信じていた」と無罪を主張していた。
15年3月のやり直し前の裁判員裁判は、男性が知人に送っていたメールの内容を有力な証拠として、懲役12年、罰金700万円の有罪判決を言い渡した。だが東京高裁は昨年1月、「知人は今回の事件と無関係だった」と指摘し、審理を差し戻していた。
このため、地裁は裁判員を選び直して審理。17日の判決では、男性がだまされやすい性格で、過去にも多額の詐欺被害にあったことなどから、「違法薬物と疑わずに持ち込んだ可能性がある」と判断した。
今回の審理では、やり直し前の裁判員裁判の録画が使われた。法廷では、税関職員らが証言する録画約8時間分が流された。判決後、記者会見に応じた補充裁判員の男性は「DVDで十分。見ている側は退屈だが、また証人を呼ぶのはお金の無駄だ」と話した。