5月29日にリニューアルして販売された「ハイゼット トラック」
2010年から8年連続で軽トラック・国内トップシェアのダイハツ「ハイゼット トラック」がリニューアルされ、5月29日に販売された。軽トラック初という「衝突回避支援ブレーキ機能」などの安全対策に加え、ボディーカラーを8色から選べたり、化粧直し用に運転席にも鏡がつけられたり。発売を前に試乗会が開かれたので参加してきた。
まずは「衝突回避支援ブレーキ機能」、いわゆる自動ブレーキを体験した。荷台には何も載せず、運転席にダイハツ社員、助手席に記者が座る。時速約15キロまで加速すると、アクセル、クラッチから足を離し、ブレーキも踏まずに壁に向かって車を進めた。10メートルほど手前からアラームがなり、壁の50センチほど手前で停車。足を踏ん張って備えていても前方につんのめる急ブレーキだった。
前後のタイヤの間隔が1900ミリと短く、横から見ると前輪の上に人が座るような状態になる軽トラック。荷台に荷物を載せず、車内には2人の大人が乗ると重心は車体の前方に大きく偏る。
この状況で急ブレーキをかけると後輪が浮く危険もある。そこを、後輪が浮き上がらないようブレーキで制御している。停車までの距離は長くなるはずだし、タイヤの間隔が短いので左右にふらついたり車体が回転したりしやすくなる。これをいかにして防止するかが開発のポイントだったというが、時速15キロほどでは乗用車の「自動ブレーキ」と比べても遜色ないと感じた。
続いては「誤発進抑制制御機能」を体験。駐車場でブレーキとアクセルを間違え、コンビニなどに車が突っ込む事故などを防ぐものだ。壁から約4メートル以内で、強くアクセルを踏み込んでもエンジンの回転数が上がらない。タイヤは車止めを越えることはなく、衝突を免れた。こちらは乗用車には広がりつつある技術で、特別なことはない。
経済性が求められる軽トラックに、それに見合った価格でオプション選択できることが強みということだろう。自動ブレーキや車線からはみ出した際にアラームで知らせる機能などとセットになった「スマートアシストⅢt」は実質5万4千円でつけられる。
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農家や山奥のスキー場の取材などで軽トラックの助手席に乗せてもらうことがある。それだけでなく、学生時代にはアルバイト先で運転していたこともある。小型でハイパワー、道なき道を進み、野山をかき分けて走る。記者にとっての軽トラックのイメージは実用性重視だった。
だから、軽トラックで初めて衝突回避支援ブレーキ機能がつき、白とシルバー以外にも6色選べるようになり、さらには化粧直しができるようサンバイザーにミラーがつけられると聞いた時には、戸惑った。
雑草が茂っていたら進めなくなるのでは? ジーンズのように擦り傷、切り傷を刻むことで味が出てくるのに、ボディーカラーが「トニコオレンジメタリック」や「ファインミントメタリック」?
ただ、ダイハツによると、いまや軽トラックに乗る人の55%は60歳以上。安全を求める声はだんだん高まっているとのこと。69%が仕事以外でも買い物などに使い、27%が通勤に、20%が家族の送迎に利用するという。
農村部などでは軽トラックは文字通り、足となって人も荷物も運んでいる。高齢者の事故も問題視される昨今、安心して乗り続けられるよう、新しい機能が選べるのは悪いことではない。乗り方が変われば買い方も変わる、ということなのだろう。
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5月29日から全国で発売。税込み68万円からで、衝突回避支援システムが標準装備されている車種は88万5600円から。(神沢和敬)