議論が白熱した「学習支援」のワークショップ=大阪市北区、滝沢美穂子撮影
生活が厳しい子どもたちを社会はどう支えるか。朝日新聞社はフォーラム「子どもと貧困~共有しよう、解決への一歩」を11日、大阪市の朝日新聞大阪本社で開きました。「子ども食堂」「学習支援」「学校と地域の連携」「親支援」の4テーマの講師の活動報告、約100人の参加者を交えたワークショップの議論を紹介します。
アンケート「子どもの貧困 責任は?」
■子ども食堂 NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長・栗林知恵子さん(50)
【活動報告】
外遊びの居場所づくりを始めてから、いろんな子に出会いました。「昨日から何も食べてない」「引っ越してくる前、車の中で暮らしてたんだ」という子もいました。
受験をサポートした中3の男の子は、母親が昼も夜も仕事。1日500円渡され、好きなものを好きなときに食べていました。「うちで食べなよ」って、私じゃなくても声をかけたと思います。
親に余裕がないなら、地域がだんらんの場を作ればいいんじゃないか。いっぱい愛された子は困難を乗り越えられる。私みたいにおせっかいな人たちがそんな場を作ればいい。子ども食堂は孤立しがちな親子を次に必要な支援につなぐ場です。
みなさん、家の前を通る子に「おかえり」って勇気を出して声をかけ続けたら、その子にとって「知ってるおばちゃん」になります。「私にも何かできないかしら」って思い続けてほしい。
【ワークショップ】
行政関係者や学生、会社員ら40人が参加。子ども食堂を始めた男性が「本当に困っている子どもに手が届かない」と発言すると、ある女性は「みんなでご飯を食べる居場所づくりが目的。かかわっていたら、いつか子どもからのSOSを受け取れるかもしれない」と話しました。栗林さんは「行政と住民との定例連絡会がきっかけで、困難を抱えた親子を行政が連れてくることもある」と説明。民生委員に子ども食堂の食券を渡し、気になる子どもを一緒に連れてきてもらっている地域もあると紹介しました。学習支援や子育て支援団体との連携も重要という指摘もありました。
運営費やスタッフの確保について、栗林さんは「子どもの貧困や居場所作りをテーマに講座があると、関心のある人が集まり、仲間ができる例もある」と発言しました。
「自分が関わる食堂の支援対象でないが、気になる子がいる」という相談には「違う食堂に一緒に連れて行ってあげて」と助言。食堂の場所や特徴を知るために、参加者から「こういう場や勉強会を通じてつながることが大事」との意見も出ました。栗林さんも「子ども食堂に携わる私たちがつながって、できることを考えていきましょう」と呼びかけました。
■学習支援 NPO法人あっとすくーる理事長・渡剛さん(27)
【活動報告】
僕自身、未婚の母子家庭で育ちました。借金取りからの電話もあり、「うちがこんなにしんどいのに、どうして誰も助けてくれないの?」と母親に言ったこともありました。
友人と団体を立ち上げたのは大学生のとき。学習塾は主に中高生が対象で、授業料はひとり親家庭なら半額。自己負担ゼロの奨学金制度も設けています。勉強を教えるだけではなく、子どもや親の困りごとを聞いて、行政につなぐこともしています。子どもたち一人ひとりと徹底的に向き合い、その子なりの生き方を一緒に見つけ、伴走することをめざしています。
協力の形はいろいろ。寄付のほか、会社員が子どもたちに人生にまつわる話を聞かせてくれたり、私たちが行政の職員研修に呼んでもらったり。
子どもたちが大人になったとき、自分の経験を社会に還元して、支え合いの輪が広がればうれしい。今日来てくださった人も巻き込んで、子どもたちが前向きに生きていける社会にしていきたい。
【ワークショップ】
大学教員や主婦、学生ら約20人が参加。4グループに分かれ、日頃の活動や思いを話し合った後、質問をふせんに書いて模造紙に貼り付け、渡さんに問いかけました。
「講師役の学生ボランティアをどのように育成しているのか」。渡さんは、子どもの貧困をめぐる背景や事例、基礎知識など5時間の座学と、10時間の活動体験を経て採用していると説明しました。「毎日が手探りだが、授業後は毎回、講師と振り返りの時間をつくって、情報や課題を共有している」と述べました。
「勉強と居場所づくりは両立するか」との問いには、「勉強も大事だけど、通い続けてもらうことが大切。まずは子どもたちが安心できる場所になることを意識している」と回答。勉強部屋とおやつなどを食べたり漫画を読んだりするスペースを分けるなど、メリハリを意識していると説明しました。
「生徒との距離感をどうするか」との問いには、「講師が授業外で子どもと会うのは禁止しているが、聞いてほしいタイミングで話は聞いてあげたい。悩ましい」と話しました。
■学校と地域 スクールソーシャルワーカー・森本智美さん(53)
【活動報告】
大阪府教育庁から市町村教委を経由して学校で活動しています。子どもや保護者と関わり、学校と外部の関係機関をつなぎます。授業中の立ち歩きやいじめ、不登校、暴力行為などの課題からその背景に何が潜むのかを考えます。家庭環境や友人関係にも目を配り、支援の方法を探っています。
地域の人たちから「学校と連携しにくい」との声を聞くことも多いです。私はスクールソーシャルワーカーとしてNPOや地域住民、行政職員、コミュニティーソーシャルワーカー(CSW)と呼ばれる地域福祉の専門職らの中からキーパーソンを見つけ、学校との間をつなぐ試みを続けています。顔が見える輪を広げて、子どもや保護者が「助けて」と声を上げられる場所づくりを目指します。
【ワークショップ】
教員や保健師、地域ボランティアら約30人が参加。連携がうまくいった例として、父子と祖母が暮らす家庭について森本さんが話しました。祖母の入院の付き添いは、祖母が信頼する養護教諭とCSWに任せ、子どもの見守りを森本さんや学校、市の福祉担当者らが担ったといいます。
参加者同士の情報交換も盛んでした。「精神疾患で引きこもる母親への対応」が話題になると、沖縄でシングルマザーを支援する女性が「地域の子どもたちみんなを子ども食堂に誘い、そのうちに『こんどお母さんも一緒にどうぞ』って声をかけている」と実践を披露。「貧困家庭と思われるのを嫌う人は多く、アプローチに工夫が必要」と語りました。
「地域の民間団体が学校や行政に信頼してもらえるには」とのNPO関係者からの質問に、「必ず相手に会って話をするように心がけている。人柄を知ることが大事」(保健師の女性)という意見や、「学校だけでは問題は解決できない。教師の側こそ、もっと外に出ないといけない」(定時制高校の男性教諭)などの発言がありました。
■親支援 母子生活支援施設「かしわヴィレッジ」施設長・橋本尚子さん(35)
【活動報告】
母子生活支援施設は、全国に243カ所ある児童福祉施設で、母子家庭の自立を支援しています。入所者の半数がDVや虐待の被害者です。
多くのお母さんは「大丈夫」としか言わない。人間関係でよい経験がないから、これ以上傷つきたくなくてSOSが出せない。我慢しすぎて、「なんでやってくれないの」と急に攻撃的になることもあります。
自尊心を傷つけないよう、「これを試してみたら」と選択肢を示しながら、根気強く声をかけ続けます。子どもよりは時間はかかっても、次第に心を開いてくれるようになります。母子ともに「大切な他者」に出会えていないことが多いので、つながることの心地よさや、人に頼る良さを伝えたい。お母さんたちの言葉をそのままとらえず、その裏側にある思いを受け止め、温かい気持ちで話しかけられたらと感じます。
【ワークショップ】
主婦や大学生ら約10人が参加しました。同じことをしても、夕食時に父親の気分次第で怒鳴られたり褒められたりした子の例を橋本さんが紹介。「夕食が一番緊張する、という不安定な生活では当たり前の価値観が育ちにくい」と指摘。施設で過ごすと、夕飯は緊張する場ではなく「温かいご飯を食べてだんらんする時」だと分かってくると説明しました。
行政職の女性が「(手厚い支援に)依存する人はいないか」と質問。橋本さんは「大切にされているという体験をしてもらうために、初めはできることは全部やる」とした上で、「安心感が得られると頼る回数も減ってくる」と話しました。
学習支援に関わる女子学生は「見えない貧困に気づくには?」と質問。「ささいなことがきっかけになる場合も。目の前の子としっかり向き合うことが大切。心配されていると感じれば子どもから表現することもある」と助言しました。
大阪市の女性職員は「要件を満たしているのに生活保護を申請しない人がいる」と相談。橋本さんは「生活保護だけはしたくないという母親の場合、就労支援にも力を入れている」と回答。それでも生活が改善されない時に背中を押すと、申請する人もいるそうです。
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