「360°モンキーズ」そうすけさん=安冨良弘撮影
■WBCを語ろう
特集:2017WBC
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、世界の選手に熱い視線を向けるお笑い芸人がいます。モノマネで人気の「360°モンキーズ」そうすけさん(41)。投手として独立リーグでプレーした経験もふまえ、WBCの魅力を語りました。
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高校の卒業アルバムに「野球を辞めて芸人になる」と書きました。野球嫌いになっちゃって。
プロ野球選手になりたくて、一般入試で高校野球の強豪・帝京高校に進学。ピッチャーでした。でも、マウンドに立てたのは一度だけです。
高校2年の秋、練習試合でした。先発させてもらったのですが、緊張からかストライクが入らない。フォアボール、フォアボール、フォアボールで満塁になって、四番打者相手にスリーボール。ベンチを見ると前田(三夫)監督が鬼みたいな形相でこっちを見ていました。
「やべーなー」と思って投げた球はど真ん中。満塁ホームランを打たれました。結局、ワンアウトもとれずに降板。以来、マウンドに上がる日はなかった。チームは甲子園に出場しましたが、ベンチにすら入れなかったです。
意地で野球部は辞めなかったけど、高校ではなんだか、チームで勝つ野球というより、個人の力で勝つ野球という感じがして。中学までは野球を楽しめていたのに、高校では楽しめなかった。それで、野球が嫌いになり、すっぱり辞めました。
■こんな細かいモノマネだれがわかるの?
芸人として鳴かず飛ばずだった28歳のときです。フジテレビ系列のバラエティー番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」のコーナー、「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」のオーディションに行きました。全然ウケなかった。「じゃ次の方……」となったとき、とっさに「こんなのもできます」と、実績がいちまちだった助っ人外国人打者のモノマネをしました。「ビャービャー」と口でBGMをつけて。そしたら、「それ面白いじゃん」となり、テレビに出ることができました。転機となりました。
中学のころから、外国人打者のマネをやって笑わせていたんです。日本人と違って外国人選手って、変(へん)っていうか、派手っていうか、おもしろいバッティングフォームじゃないですか。動きも独特で「あんなんで、なんで打てんのかい!」と思って、マネしてみたら、周りにおもしろがられて。当時から定番のクロマティとかはやらずに、マニアックな選手ばっかりやっていました。みんなが知っている選手だとつまんないじゃないですか。「誰それ?」みたいな方がウケた。高校時代は前田監督も笑ってくれましたよ。
それがいま、芸になるとは驚きです。自分自身、誰がわかるのかな、と思いながらやっていましたけど、それがウケるなんてまさかですよ。今では野球だけではなくマニアックモノマネという笑いのジャンルができて、世間に受け入れられるなんて、思ってもみなかった。
■40歳、マウンドで燃え尽きた
去年1年間、独立リーグの四国アイランドリーグplus(四国IL)でプレーしました。野球でお金をもらっていたので、NPBじゃないけど「プロ野球選手」です。
40歳という区切りで、人生を振り返ったとき、高校で野球が嫌いになって以来、野球から逃げたという思いがずっとありました、プロになりたかったという夢にもう一度挑戦してみようと、トライアウトを受けました。最年長で、合格するとは思いませんでした。もちろん芸能人として初合格でした。
四国ILでの通算成績は0勝0敗。9試合投げて計13回3分の2、防御率1.98でした。数字以上に忘れられない登板があります。
8月に先発した試合でした。4回まで無失点。5回、勝利投手の権利が得られるまで、あと1アウトというところで、四球を連発して満塁にしてしまって降板……。そう、高校時代と同じ展開です。悔しかった。
でも今回は、もう1試合チャンスがあった。9月にまた先発登板する機会をもらえました。そこで、同じように無失点で迎えた5回、また四球と死球を出してしまった。「おれ、また同じことやってしまうのか」ですよね。
でも、そのときマウンドに来たコーチが「こんどは乗り越えるんだろ」と声をかけてくれて。バックの仲間からも「あとひと踏ん張り。頑張れ」って声が聞こえて。「夢をかなえるんだ」「味方を信じて」というファンの声援も耳に届いた。
言葉の力、仲間の力ってすごいなと。なんとか5回無失点で投げ切れました。試合は逆転負けで勝ち星はつきませんでしたが、先発投手として役目を果たせたという満足感でいっぱいでした。
四国ILでの野球は、ひとつのアウトをとるのに、たくさんの人が関わっているんだなと感じました。ピッチャーだけが野球をやっているんじゃないと感じて「野球って本当にすばらしいな。仲間っていいな」と心から思えた。野球選手として燃え尽きることができたと納得できたし、18歳のときの忘れ物を、取り返したような気がしました。
■野球のおもしろさの伝道師に
いまは芸人として「元プロ選手」として、野球のおもしろさ、すばらしさを伝えていきたいです。その意味でWBCは大きなチャンスですよね。
プレーヤー視点で言うと、全員野球を見せて欲しいです。日の丸を背負う選手は、ものすごいプレッシャーでしょうけど、ぜひとも勝ち上がって欲しい。そのためには全員野球。チームが団結して、一丸となって立ち向かえば、どんな強敵にも勝てる力が侍ジャパンにはある。
芸人視点で言うと、ぜひとも外国人選手に注目して欲しいです。大ぶりなバッティングフォームなのに、めちゃくちゃ器用にカットしてファウルにする技術とか、変な投げ方なのに球がものすごく速いとか。世界には日本人選手ではありえない野球をする選手がたくさんいます。そういう細かい部分を楽しめるのも、WBCの魅力だと思います。楽しみですね。(聞き手・佐々木洋輔)
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そうすけ 本名、杉浦双亮。1976年生まれ。東京都八丈島出身。お笑いコンビ「360°モンキーズ(サブロクモンキーズ)」のボケ担当。2016年、独立リーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」に所属。「最速123キロ、僕は40歳でプロ野球選手に挑戦した」を1月に出版した。右投げ右打ち。41歳。