裁判所の命令に反して長男が通う中学校を訪れたとして、配偶者暴力防止法(DV防止法)違反の罪に問われた父親(50)に、東京高裁が逆転無罪判決を言い渡した。同法は「学校周辺での徘徊(はいかい)」を禁じているが、藤井敏明裁判長は、父親の行為は「徘徊」には当たらず、同法に基づく命令には違反していないと判断した。判決は2月24日付。
判決などによると父親は昨年4月、妻への暴力を理由に、DV防止法に基づいて妻と長男に接近することを6カ月間禁じる保護命令を受けた。しかし、同年6月、長男の学校を約8分間訪れたとして起訴された。
裁判では、父親が学校を訪れ、父子の交流を続けることが重要だ、などと記した校長あての手紙を教頭に渡したことが「徘徊」に当たるかが争点となった。
昨年9月の一審・東京地裁判決は、「手紙を渡す必要性や緊急性はなく、学校を訪れる以外の手段があった」と指摘。徘徊にあたると認め、懲役4カ月執行猶予2年とした。
高裁判決は、辞書の説明を引いたうえで、徘徊を「理由もなく住居や学校の付近をうろつく行為」と定義。父親は短時間で手紙を渡しただけで、周囲を見回す様子もなかったとして、徘徊には当たらないと結論づけた。
判決について父親の弁護人を務めた石部享士(たかし)弁護士は「立ち入りイコール徘徊という運用がされてきたが、行動の自由の制約には慎重であるべきだ」と評価。一方、NPO法人「女性と子どものエンパワメント関西」の田上時子理事長は「理由にかかわらず、被害者や子どもの周辺に一切近寄るな、というのが保護命令の趣旨のはず。命令を無視する人が出かねない」と述べ、法律を見直して保護命令をより厳しく適用すべきだと指摘した。(志村英司)