引退会見を終え、マイクを置く浅田真央選手=12日午後0時25分、東京都港区、林敏行撮影
26歳の口から語られたのは、すべてを出し切ったという充実感だった。フィギュアスケートの浅田真央選手が12日に臨んだ引退の記者会見。壁を乗り越える姿とその笑顔が多くの人を魅了した。国民的ヒロインの引き際を、感嘆とねぎらいの声が包んだ。
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浅田真央の歩み
会場を埋め尽くした約430人の報道陣がどよめいた。笑顔で臨んだ引退会見で、浅田真央選手が「もし、もう一度人生があるのなら、スケートの道はないかなと思います」と言ったときだった。またスケートをやると思う、という予想された答えではなかった。
ソチ五輪シーズンに入る直前の2013年9月、自分の信念について、「やるべきことをやる。自分が言った目標はやらなきゃだめ。目標があるからコツコツ頑張れる」と話していた。約1年の休養を経て15年5月に復帰を表明したときは、「できるんじゃないかな、できないんじゃないかな」という両方の思いがあったという。どんなことでも「できる」余地が残っている限り、諦めたことはない。
その浅田選手が会見で、「挑戦して、気持ちも体も気力も、全部出し切った」と言った。12位だった昨年12月の全日本選手権で、やるべき挑戦を全て尽くした気持ちになれた。フリーの得点を見たとき、「ああ、もう終わったんだな。うん。もういいのかもしれない」と思ったという。トリプルアクセル(3回転半)ジャンプの踏み切り足として長年酷使した左ひざを痛め、十分な練習を積めない中での演技だった。
「本当に晴れやかな気持ちなので」と選んだという白のブラウスとジャケット姿で、こうも言った。「もう一度自分でチャレンジすることができてよかった。やり残したことは何だろうと思うことがなかった。それだけ全てやり尽くした」
会見で立ち上がって最後のあいさつをするとき、「これから新たな目標を見つけて笑顔で前に進んでいきたい」と話したところで、後ろを振り返って涙を拭いた。再び前を向き、「みなさんどうも応援ありがとうございました」。涙目のまま笑って、「スケートは私の人生」と表現した選手生活に終止符を打った。(後藤太輔)