右翼・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペンの集会では、国旗とともに「マリーヌ 大統領」の旗が打ち振られる=3月26日、仏北部リール、青田秀樹撮影
23日に第1回投票が迫ったフランス大統領選。「自国第一」を掲げ、支持率で首位を競うのが右翼・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(48)だ。かつて「差別主義的だ」と危険視されてきた党が、今なぜ高い人気を集めるのか。フランス政治をウォッチしてきた青田秀樹パリ支局長がルペン氏の集会を取材し、支持者たちの思いをさぐった。
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スポーツ用品や白物家電の大型店が並ぶ郊外のショッピングモール。日曜は店を閉じるのがフランス流だ。だが3月末の昼、その駐車場に車が並んでいた。
仏北部の小さな町フキエール・レ・ベチュヌ。地元の住民が次々に集まる。ほどなく2台の大型バスがあらわれた。リストに記された名前が読み上げられ、約100人が乗り込んだ。
向かった先は、フランスの北の玄関口、リール市。マリーヌ・ルペンが開く集会に参加するためだ。
石炭採掘の跡のボタ山やジャガイモ畑を眺めながら、リールまで1時間ほどの道のり。支持者とみられる男性が歌うシャンソンの甘い声が車内に響く。
♪天使の笑顔 みんなマリーヌが好きだ
車窓の風景が、リール市内のビルにかわるころ、だれかが国歌「ラ・マルセイエーズ」を口ずさんだ。たちまち全員での大合唱だ。高校生のころからFNを支持しているというトム・ルノー(19)は「すごい熱気だった」と語った。
最前列に座り、一行を率いたミリアム・ウプランフォカール(70)は、ひざ丈のスカートに、そろいのグレーのジャケットで、ちょっぴり着飾っていた。
「マリーヌは民衆のために働いてくれる。ほかの政治家は自分たちのために行動しがちなのに」
中道右派の町長のもとで助役として働いた経験を踏まえて、そう感じている。
ルペンに興味を持ったのは、地方選挙があった2015年だ。テレビで映し出される姿ではなく、実物を見てみたいと思った。ルペンが選挙区とする、同じ仏北部のエナンボモンでの集会に出向いて魅了された。
人間味にあふれ、人の話に耳を傾けてくれる。なんて親近感にあふれる人なの――。
この思いが、FNの運動員としての原動力だ。
リール市のイベントホールには、近郊の自治体から何十台ものバスが集まってきた。降り立った人たちは、列をなして会場へと歩く。国歌が繰り返し歌われ、国旗が振られる。そして反移民を掲げたFNの集会でおきまりのシュプレヒコールが叫ばれる。
「俺たちは俺たちの国にいる」
つまり、よそものに居場所はない、という意味だ。
開幕。照明がおとされたホールにビデオが流れた。
「難民・移民よりもフランス人の雇用を気づかってくれる政府がほしい。マリーヌが必要だ」「年金が少ししかない。購買力を下げる通貨(ユーロ)はもういらない。マリーヌが必要だ」
スクリーンに大写しになったルペンは、そんな人々の叫びをタブレット端末で見つめる。そして、聴衆に向かって呼びかけた。
「フランスに秩序を取り戻す。あなたが必要だ」
細身の黒いパンツに赤いジャケット、赤いパンプス。ルペンが登場すると、5千人ほどの聴衆が地響きのようなうなりが広がった。ステージにあがったルペンは大きく手を振ってこたえる。
フキエール・レ・ベチュヌからの一行を率いたウプランフォカールは、客席の中央最上段に陣取っていた。国旗を振り、足を踏みならし、ウェーブに加わった。
フランス北部は、ルペンの選挙…