１９７４年夏、人口６千人余りの町がわいた。秋田県由利本荘市の亀田地区に、映画「砂の器」の撮影班がやってきた。丹波哲郎さんと森田健作さん（千葉県知事）が刑事役を演じ、数日滞在。ハンセン病への根強い偏見に焦点を当てた名作として知られる。

東京で起きた殺人事件の手がかりをつかむため来県したが、捜査は空振りに終わる。亀田での捜査は、真相にたどり着くまでにあった紆余曲折（うよきょくせつ）の一場面だ。舞台はその後、島根、石川、大阪などに移っていく。

まだ国鉄の時代。羽後亀田駅の改札を出た２人が、駅前で食事をするシーンがある。撮影に使われた食堂はもうないが、森田さんには思い出がある。「丼をガツガツ食べていたら、丹波さんに『若いね』と言われた」。劇中、丹波さんは笑いながら確かにそう話す。アドリブだったのだろう。人気俳優の２人の周りには、いつも人垣ができた。

駅でエキストラとして出演した…