洪準杓候補の集会で、ダンスを踊る支持者ら=5日、ソウル、遠藤啓生撮影
9日投開票の韓国大統領選は最終盤を迎え、選挙戦は熱を帯びている。
特集:韓国大統領選挙
学生の街として知られるソウル市・新村(シンチョン)。5日夕、保守系「自由韓国党」の洪準杓(ホンジュンピョ)候補が演説を終えると突然、おそろいのTシャツを来た若者たちが登場し、ノリのいい音楽に合わせて踊り出した。遠巻きに見ていた中高年の聴衆も手を振り、腰を振り出す。
若者たちは地元の学生かと思いきや、首から中央選挙管理委員会発行の「選挙事務員」のステッカーをぶら下げている。選挙運動に公式に参加するダンスチームなのだ。候補の「ロゴソング」(選挙広報ソング)にあわせてダンスパフォーマンスを披露し、有権者に支持を訴えるのが役割だ。
洪陣営だけではなく、各候補の陣営がそれぞれ独自のチームを抱え、技量を競っている。韓国大統領選のもう一つの闘いだ。
中央選管によると、韓国の大統領選で候補者の「ロゴソング」が解禁されたのは、民主化から10年を経た1997年12月の第15代大統領選挙。ダンスチームもこの時にお目見えした。軍事政権時代を経て、民主化の定着を示す光景の一つだった。
この選挙で当選した進歩(革新)系の金大中(キムデジュン)大統領の主題歌「DOCと踊りを」は、歴代最も有権者の心をつかんだ「ロゴソング」の金字塔として今も語り継がれる。人気ラップダンスグループ「DJ・DOC」が作詞作曲。韓国メディアは「当時、金大中氏が持っていた安保、経済分野での不安感を薄めた」と評する。以降、進歩、保守を問わず、候補者はダンスチームを編成するようになり、韓国選挙の風物詩になった。
ただ、時代が移ろい、選挙ダンスに新鮮さがなくなってきたという声も聞かれる。前大統領の弾劾(だんがい)・罷免(ひめん)、逮捕、若者の就職難、格差拡大と韓国社会が抱える課題は山積みで「踊っている場合なのか」という意見もちらほら出てきた。
今回の大統領選の選挙運動が公式に解禁された4月17日は、修学旅行中の高校生ら295人が死亡、9人が行方不明になったセウォル号沈没事故から3年たった日の翌日。事故や災害の対策充実を公約する「国民の党」の安哲秀(アンチョルス)候補は、弔意を示すとしてダンスチームの活動を2日間自粛した。(ソウル=武田肇)