プロ野球・読売巨人軍の新人契約金をめぐる朝日新聞の判決報道などに関して、巨人軍が求めていた審理について、朝日新聞社の「報道と人権委員会」は8日、「審理しない」と通知した。
巨人軍は、2012年3月の報道に関連した訴訟の昨年6月の東京高裁判決と同11月の最高裁決定を報じた各記事、委員会が再審理しないと巨人軍に回答したことを取り上げた記事によって名誉を毀損(きそん)されたとして、今年4月、改めて審理するよう求めていた。委員会は「実質的に4度目の申し立て」としている。
今回の通知書で、委員会はその使命について、取材・報道に関して寄せられた苦情のうち、「社会に広く訴える手段を持っていない一般個人を救済することにある」とし、①巨人軍は、巨人軍の意向も踏まえ審理した12年7月の委員会の見解を不服として訴訟を起こし、すでに決着している②巨人軍の主張は、読売新聞紙上で十分に報じられている――などと指摘。「改めて受理して審理する必要は認められない」とした。
また、委員会が今年1月の通知書で、再審理に応じない理由として「実質は、控訴審において巨人軍が新たに追加した主張に関し審理することを求めるものにすぎない」と指摘した点をめぐり、巨人軍側がその見方を批判していることについては、「(委員会に)誤りがあるとは考えられない」とした。
契約金報道をめぐる巨人軍の申し立てを受けた委員会は12年7月、「報道と取材に問題なし」との見解を出した。巨人軍は同12月、5500万円の損害賠償などを求め提訴。一審の東京地裁は15年9月、巨人軍の請求を棄却したが、二審の東京高裁は主張の一部である330万円の損害賠償を認め、昨年11月の最高裁決定で、二審判決が確定した。巨人軍は委員会に再審理を申し立てたが、委員会は今年1月に再審理しないと通知。巨人軍は「抗議及び要求書」を提出した後、判決報道に誤りがあるなどとして、4月に改めて審理を求めていた。
〈読売巨人軍広報部のコメント〉 報道被害の申し立てについて、形式的な理由で門前払いしたことは、第三者機関としての中立性と責務を放棄したものと言わざるを得ません。
報道と人権委員会が読売巨人軍に送った通知書の内容は次の通り。
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報道と人権委員会(以下「当委員会」という)は、貴社からの2017年4月7日付申立て(以下「今回の申立て」という)について審理しないことを通知します。
今回の申立ては、朝日新聞が12年3月に報道した「読売巨人軍が球界で申し合わせた新人契約金の最高標準額を大幅に超える契約を多数の選手と結んでいた」ことを主要な内容とする一連の記事に関連するものとしては、実質的に4度目の申立てとなります。今回の申立てで、貴社は、東京高等裁判所判決について報道した記事(16年6月9日朝刊、記事①)、双方の上告を不受理とする最高裁判所決定について報道した記事(同年11月26日朝刊、記事②)、当委員会が貴社の2度目の申立てについて審理しないと通知したことについて報道した記事(本年1月12日朝刊、記事③)をそれぞれ取り上げ、記事①と②は判決と決定の意味を読者に誤解させる不公正な内容であり、そのことにより貴社の名誉を毀損(きそん)しているとし、記事③は貴社の裁判における追加主張がどの段階でなされたかについての当委員会の見解を批判され、それをそのまま報道することにより貴社が不合理な見解を押し通そうとしているような印象を読者に与え、そのことにより貴社の名誉を毀損していると主張されています。
ところで、当委員会の使命は、記事③で報道された貴社あての本年1月11日付通知書でも申し上げた通り、取材・報道で名誉毀損等の人権侵害などがあったとして寄せられた苦情のうち、社会に広く訴える手段を持ち合わせていない一般の個人の方々を救済することにあります。司法による解決に委ねた方がよいと判断した案件や既に訴訟が提起されている案件は受け付けません。企業・団体からの申立てを取り上げるのは、3人の委員の意見が一致した場合に限っています。
朝日新聞が12年3月に報道した貴社に関する記事については、貴社の意向も踏まえて申立てを受理し、同7月に見解をまとめました。貴社はこの見解に納得せず、朝日新聞社を相手に訴訟を提起され、すでに16年11月、最高裁決定により、司法の場でも決着がついています。貴社は裁判の結果を受けて、当委員会に16年12月22日付申立書で再審理を要望されましたが、当委員会は、同一の事件について再審理に入ることに特段の合理性も必要性も認められないと、本年1月11日付で通知したところです。
今回の申立ては、上記訴訟の判決・決定および当委員会の通知書を報じた記事をめぐる内容となっていますが、貴社の主張はすでに読売新聞紙上で十分に報じられています。貴社が、本件見解を不服として訴訟を提起した等の経緯からしても、上記の当委員会の使命に照らしても、改めて受理して審理する必要は認められないとの結論にいたりました。
なお付言しますと、当委員会は記事③で報道された本年1月11日付通知書で、「本件申立ての実質は、控訴審において読売巨人軍が新たに追加した主張に関し審理することを求めるものにすぎません」と述べています。貴社も認めておられるとおり、一審の東京地方裁判所判決は貴社によるこの主張の当否を争点として示していません。このことは貴社が一審で、名誉を侵害する主要な事実として、明確にこうした主張をしていないことを強く示すものです。一審判決における争点の整理に誤りがあったというのであれば、貴社は控訴理由書において、その点を控訴理由として挙げていたでしょうし、そうした控訴理由書を貴社の主張を裏付ける資料として、当然、当委員会にも提出していたはずではないでしょうか。
以上のことからすれば、貴社の申立ての実質が、「一審では争点となっていなかった」、つまり「控訴審において新たに追加した主張」に関して審理することを求めるものであるとの当委員会の指摘に、誤りがあるとは考えられません。