コミー氏が明かすトランプ氏の「圧力」
「忠誠を」「やり過ごせ」「暗雲を取り除け」――。突如解任された米連邦捜査局(FBI)のコミー前長官が暴露したトランプ米大統領との会話の詳細からは、捜査機関への「圧力」とも取れる言葉が何度も飛び出した。ホワイトハウスは全面否定してきたが、8日の米上院での公聴会後、司法妨害をめぐる疑惑が深まるのは避けられない。
「ロシアが大統領選に介入、疑いない」FBI前長官証言
「初めて次期大統領のトランプ氏と会ったのは1月6日、ニューヨークのトランプタワーの会議室だ」
コミー氏が出した声明は、トランプ氏との初対面の場面から始まる。
コミー氏は情報機関の幹部とともに、ロシアによる大統領選介入に関する調査について報告。その後、トランプ氏と二人っきりになり、調査の過程で得た、トランプ氏に関する個人的で機微な情報を伝えた。
米メディアは4日後、「(トランプ氏の)不名誉な個人的、財政的情報」をロシア当局が保持している疑いがあると報じた。トランプ氏の陣営がロシアの仲介者と継続的にやりとりをしていた問題や、トランプ氏の性的なスキャンダルも含まれていた。
コミー氏は面会後、こう感じた。「次期大統領との会話をメモにして残さずにはいられなくなった。トランプタワーから出てFBIの車に乗ると、パソコンで打ち始めた」
コミー氏は以後、トランプ氏との3回の面会と6回の電話について、すべてメモに記録。コミー氏は8日の公聴会で、オバマ政権時にはなかった習慣とした上で「自分とFBIの独立性を守るためだった」などと説明した。
コミー氏が2度目にトランプ氏と会ったのは1月27日午後6時半。ホワイトハウスの「グリーンルーム」で夕食を共にした。部屋の中央にある小さな楕円(だえん)形のテーブルで向かい合う。
「トランプ氏が『私には忠誠が必要だ。忠誠を期待している』と言った。私は動かず、口を開かず、表情も変えなかった。ぎこちない沈黙が続いた」
食事中、トランプ氏は、1月6日に報告を受けた個人的な疑惑を強く否定。間違いだと証明するよう捜査を命じることをほのめかした。コミー氏は自制を求めた。夕食の最後に再び忠誠を要求してきたという。独立性が重要な捜査機関を、自身の思い通りに掌握したいという思いがにじむ。
トランプ氏「忠誠が必要だ」
コミー氏「私は常にあなたには正直でいます」
トランプ氏「『正直な忠誠』、それこそ私が欲しいものだ」
コミー氏は夕食での会話をメモにし、FBIの一部の最高幹部で共有した。
トランプ氏が捜査への「圧力」をもっとも強めたのが、2人が3回目に会った2月14日だった。
ホワイトハウスの大統領執務室で、トランプ氏やペンス副大統領ら計7人が机を挟んで座った。テロ対策について協議が終わった後、トランプ氏がコミー氏と2人になりたいと言い出した。最後まで、トランプ氏の長女の夫で最側近のクシュナー氏が残っていたが、トランプ氏自ら、外すよう求めた。
「フリン氏のことで話がしたい」とトランプ氏は切り出す。大統領補佐官(安全保障担当)だったフリン氏は前日、辞任。政権発足前に駐米ロシア大使と対ロ制裁について話していたことが問題視されていた。
「トランプ氏は『彼は良いヤツだ。(捜査を)やり過ごして欲しい』と言った。私は『彼は良いヤツだ』とだけ答えた。『やり過ごす』と言わなかった」
コミー氏は8日の公聴会で「言葉としては命令ではなかった」としつつ、「私は大統領と2人だった。彼が私にそうして欲しいのだと受け取った」と語った。
その後、フリン氏に関するやりとりを文書にし、FBIの最高幹部と、トランプ氏の「圧力」について協議する。
「大統領は、フリン氏に関するいかなる捜査からも手を引くよう求めていると私は理解した」。大統領が、ロシアの介入問題や、トランプ氏陣営との関係に関する、広範な捜査のことまで求めているかは分からなかった。FBI最高幹部は、現場の捜査チームに悪影響が及ばないようにすることが大事だということで合意。捜査チームには大統領の要求を知らせず、急ピッチで捜査を進めた。
3月30日、FBI本部にいたコミー氏は、トランプ氏から電話を受ける。
「彼はロシア疑惑の捜査を『暗雲』と表現した。『暗雲を取り除く』ために何が出来るか尋ねてきた」
コミー氏は、疑惑に関する捜査を早く終わらせることが大事だと強調した。トランプ氏は自分にかけられた疑惑を拭うことを優先させるようになっていた。
「大統領は、『取り巻き』が悪いことをしたのなら、それを明らかにするのは良いだろう、と言った。しかし、彼は何も悪くなく、彼が捜査対象ではないことを示す方法を見いだすよう私に期待した」
4月11日にもトランプ氏は電話で同じことを要求。2人の最後の会話だった。
約1カ月後、コミー氏は、クリントン元国務長官のメール問題の対応が不適切との理由で解任された。
コミー氏による7ページに及ぶ…