加計学園の獣医学部新設をめぐる証言などの食い違い
学校法人「加計(かけ)学園」による国家戦略特区での獣医学部新設をめぐり、「総理のご意向」などと記された文書の存在を朝日新聞が報じてから1カ月。文科省の再調査で政府はようやくその存在を認めたが、獣医学部新設の経緯の不透明さは解消されていない。安倍政権は国会閉会と同時に幕引きを図るが、疑問点は置き去りのままだ。
「対応に時間がかかったことについて率直に反省したい」。安倍晋三首相は16日の参院予算委員会で、加計学園をめぐる問題について神妙な表情で答弁した。当初は「怪文書のようなもの」と相手にしなかった菅義偉官房長官も同日の記者会見で、「現在においては文科省に存在していることが確認された文書であると承知している」と述べて事実上、発言を修正。低姿勢を見せた。
首相は当初、「加計問題」については強気だった。3月の参院予算委では、質問した社民党の福島瑞穂氏に「全く関係なかったら、あなた責任とれるんですか」と語気を荒らげて迫る一幕もあった。
しかし、5月17日に朝日新聞が「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などの文書を報道。その後、前川喜平・前文部科学事務次官らの証言が相次ぎ、2度の調査で文書が文科省に存在することが発覚した。そんな中、文科省が公表した文書の中に、首相の最側近の萩生田光一官房副長官の名前が登場し、火種は首相官邸の中枢に。国会最終盤で防戦に追い込まれた。
文科省が15日に公表した内閣府から文科省に送られたメールと文書によると、萩生田氏が内閣府に対し、国家戦略特区で獣医学部を新設する事業者選定の要件について、実質的に加計学園しか応募できなくなる要件に修正するよう指示していたとされる。
この事態に、国家戦略特区を担当する山本幸三・地方創生相は文科省が調査結果を公表した翌日の16日、内閣府の職員が「事実関係を確認しないまま発信したもの」とメールの内容を否定。午後の参院予算委では、この職員が文科省出身であることに触れ、「陰で隠れて本省にご注進したというようなメール」とまで言い切った。
萩生田氏から修正指示を受けたとメールに記された内閣府の藤原豊審議官は同委で「山本大臣の指示を受け、私が手書きでこの文案に修正を加えた」とする一方で、萩生田氏の指示はなかったとした。萩生田氏は「決定に関わって」と前置きしたうえで、「指示したことはない」と答えた。
しかし、なお不透明な部分が残る。
メールには、内閣府の職員の記述として「文案(手書き部分)で直すよう指示がありました。指示は藤原審議官曰(いわ)く、官邸の萩生田副長官からあったようです」とあり、記述は具体的だ。藤原氏との打ち合わせに「同席した」とも記し、藤原氏自身が手を入れた文書も添付してあることから、この職員は内部事情に通じていた可能性が高い。
山本地方創生相は16日、メールについて「(職員が)課内で飛び交っているような話を聞いて、確認しないままに書いた」と記者団に述べたが、共産党の小池晃氏は参院予算委でこの発言を取り上げ、「なんで萩生田さんの名前が飛び交うのか」と指摘。特区の担当ではない萩生田氏が、話題になるほど関わっていたのではないか、と疑問を呈した。(小早川遥平、木原貴之)
■自民・竹下氏「今日は終業式」
この日の集中審議は、首相の危機感を背景に実現した。
「集中審議は受けざるを得ない」。13日夜、東京・赤坂の中国料理店であった与党議員らとの会合。話題が国会最終盤の対応に及ぶと首相はそう語った。出席者のひとりは「首相は深刻な様子だった」と語る。
報道各社の世論調査では、内閣支持率の下落傾向が続く。加計学園の問題をめぐる政府の説明に「納得できない」との声も多く、首相は自ら疑念を否定することで、局面を変えたいとの思惑があった。
自民党の苦戦が伝えられる都議選も控え、政権・与党は「口をつぐんだまま国会を終えるとイメージが悪い」(政府関係者)と判断。15日朝に「共謀罪」法が成立して、わずか5時間後に文科省が再調査結果を公表。内閣府も徹夜で調査し、国会審議の実質的な最終日である16日に説明できる環境を整えた。
集中審議では、文科省と内閣府の説明の食い違いも浮き彫りになったが、官邸幹部は「首相がテレビ中継のある審議で野党議員と対峙(たいじ)したことが重要」。自民党の竹下亘国会対策委員長は同日夕、民進党から国会閉会中も集中審議を実施するよう求められたが拒み、記者団にこう語った。「今日は終業式。夏休みというわけではないが、ホッとして一拍置こうという心境だ」(大久保貴裕)