布藤さんが寄贈した標本の一部=草津市下物町
県のレッドデータブック2015年版で絶滅危惧種に指定されているギフチョウ(アゲハチョウ科)など、国内外の珍しい昆虫を含む約2260種の標本2万5786点を、滋賀県彦根市岡町の布藤美之さん(87)が県立琵琶湖博物館に寄贈した。約70年かけて集めた標本を「若い人に役立ててほしい」と話している。
布藤さんは元小学校教諭で、環境保護の啓発などをする市民団体の元会長。2005年に彦根市が発刊した「彦根市で大切にすべき野生生物」の制作にも協力した。
動植物が好きだった祖父の影響で、15歳のころから昆虫採集を始めた。教師になってからも夏休みなどを利用して国内外へ足を運んだ。寝袋などをかついで山道に分け入り、2、3日間山の中で過ごすこともしばしば。直径約50センチ、深さ約1メートルの捕虫網を使ってみずから捕まえ、自宅の6畳間で飼育した。標本は、高さ約2メートル、幅約90センチの特注ダンス9さおに、乾燥剤や防虫剤を入れて保存していたという。
なかでも好きだったのがチョウだ。寄贈したうち約2080種約2万5千点がチョウだった。「顕微鏡で見ると、羽についている鱗粉(りんぷん)が整然と並び、模様をつくっている。自然がつくる美しさを感じられる」と話す。環境に左右されやすく、短命ではかないところも魅力の一つで、チョウが飛んでいる姿を見ると、ほっとするという。
高齢になり、収集が思うようにできなくなったことから寄贈を決め、今年3月、博物館に贈った。
寄贈された標本は360箱に及ぶ。国産のものが約440種1万7573点、外国産が約1820種8213点。博物館によると、県内最大級のコレクションという。
外国の愛好家仲間と交換したものやギフチョウのほか、絶滅危惧種に指定されているクロヒカゲモドキ(ジャノメチョウ科)、絶滅危機増大種のウラジロミドリシジミ(シジミチョウ科)の標本も含まれている。
琵琶湖博物館の学芸員八尋克郎さん(54)は「ひとつひとつ産地と採った年が分かるラベルが貼ってあり、虫に食べられたあともない。丁寧に管理していたことが分かる」と話す。
博物館は、防虫処理をした後、収蔵庫に保管。データベースへの登録を進めていく。年内に一部を一般公開することも検討しているという。
布藤さんは「長年かけて集めたものを寄贈できて、ほっとした。標本を通して、どんな昆虫がどこにいたかが分かれば、その土地の環境、歴史を学ぶことにもつながる。その意味で、標本は文化財だと思う。若い人に役立ててほしい」と語った。(藤牧幸一)