おしゃべりの会で談笑する辻本千佳さん(左から2人目)ら。参加者の1人が披露したご朱印帳の話で盛り上がった=金沢市、田中ゑれ奈撮影
病気や事故などで伴侶を亡くした人が思いを分かち合う「おしゃべりの会」の輪が、3年前に夫を亡くした石川県津幡(つばた)町の辻本千佳さん(49)がつづるブログをきっかけに広がりつつある。死別体験と向き合う人たちの共感を呼んでいる。
千佳さんの夫・昇さんが白血病と診断されたのは2000年1月。体はみるみるやせ、合併症の影響で背中やひざが曲がり、181センチあった身長は150センチに。11年4月に敗血症になってから毎日12時間の人工透析が欠かせなくなった。
不自由な体でも周囲を楽しませることを忘れない人だった。下着を着替えさせようとするとバレリーナのようにピーンとつま先を伸ばし、おどけた。いつしか「このままずーっと、生きていられるだろう」という思いが千佳さんの心に芽生えていた。だが、14年6月10日に容体が急変。4日後に46歳で息をひきとった。
以来、千佳さんは家から出られなくなった。「のぼっちゃんは死んで、もうごはん食べられないのに」。食べ物を口にすることにも罪悪感を覚え、体重が7キロ減った。
約3カ月後、だれにも話せないつらさを吐き出す場が欲しくてブログを始めてみた。コメント欄でやりとりした東京の女性と会ったことがきっかけで15年5月、伴侶と死別した読者数人と初めて都内で集まった。以来、回を重ね、「おしゃべりの会」と呼ばれるようになった。
参加者はブログ上の名前の「ハンドルネーム」で呼び合うのが基本で、初対面でも堅苦しいあいさつや自己紹介はしない。自由に写真や遺骨、遺髪を見せたり、時にはのろけ話に花を咲かせたり。無理に「立ち直り」は求めない。これまでに東京、金沢、大阪、埼玉で開かれ、参加者は延べ170人を超えた。
遺骨をお墓に納められないままでいること、本に挟まった亡き夫の髪を見つけてうれしかったこと。2月にあった金沢の会では、誰かが経験談を口にするたびに共感の声が広がった。夫を肺がんで亡くした50代の女性は「寂しいとか悲しいとか、ここでは構えずに思ったことを言える」。
家から出られなかった千佳さんは昨年末、パートの仕事を始めた。「悲しんじゃいけないと言われてもピンとこないけど、新しい自分にはなれる。私が輝いていれば、主人もみんなの心の中で生き続けられると思えるようになった」