忘れられない一打がある。

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２年前の夏、第９７回全国高校野球選手権大会。早稲田実は３回戦で、東海大甲府（山梨）と対戦した。１対１で迎えた三回表無死一塁、１年生だった清宮幸太郎が打席に入った。１ボール２ストライク。真ん中のチェンジアップを振り抜くと、打球は大きな放物線を描いて右中間スタンドに吸い込まれた。

西東京大会では全６試合に出場し、２０打数１０安打１０打点。三塁打１本、二塁打４本を放つなど活躍と呼ぶに十分な成績だった。だが本塁打はなく、清宮自身はもやもやした気持ちを抱えたままだった。

甲子園の一打で、はっきり意識できたことがある。「楽しもうとずっと思っていた。その延長線で打てた」。力まず、柔らかく、自然体で。「この感じでいいのかって。何かつかめたんです」。清宮の高校野球の原点となった。

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小学生から注目の的だった。６年の時、身長はすでに１８０センチ近かった。リトルリーグの世界選手権で大会史上最長の９４メートルの本塁打を放つなどチームの優勝に貢献、米メディアから「和製ベーブ・ルース」と称された。

父・克幸（４９）は強豪でラグビー選手として活躍。監督としても早稲田大を大学日本一、サントリーをトップリーグ優勝に導くなど名指導者で知られる。いやがうえにも「トップアスリートの息子」という関心が集まった。

しかし、中学に入ると評判はぱたりと途絶える。

「中学時代は全然打った記憶がないです」

１年生で腰をけがした。野球ができない時期があった。最後の夏の試合は代打で１打席のみ。二塁ゴロに倒れた。その経験はコンディションづくりの大切さを気づかせた記憶として今も残る。

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清宮は今春、選抜で甲子園に戻ってきた。１年の秋、２年の夏は、いずれも都の大会で敗れ、全国への道をたたれた。１年半ぶりの甲子園。初戦の明徳義塾（高知）には勝利したが、東海大福岡に敗退。自身は９打数３安打０打点。納得がいく結果ではなかった。

好不調の波はずっとあった。その中で徹底的に自分と向き合い、試行錯誤した。打撃練習で撮影したフォームを見ては微調整を続けた。

調子が落ちると、打ちたいという気持ちが勝り、重心が前に寄る悪いくせがある。ボールを待つ構え、踏み込む前の足の上げ方を変え、少しずつ、タイミングを合わせられるフォームに近づけていった。「打てる時のフォームは毎回違う。新しい練習も採り入れて引き出しの数を多くすることも必要です」

成果は今春の都大会後半から現れる。準々決勝の駒大高戦で、高校で目標にしていた８０号を放つ。４月２７日、異例のナイターとなった決勝。九回裏、早稲田実は日大三に３点リードを許していた。八回に本塁打を打っていた清宮に打順が回る。２万人の観衆。快音を残した打球は再び、神宮球場の外野スタンドに消えた。同点の３点本塁打。延長十二回でサヨナラ勝ちした。清宮に「プレッシャー」の言葉はなかった。「応援が、自分を奮い立たせてくれた」

都大会後も招待試合などで本塁打を量産し、高校通算１０３本まで伸ばした。

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克幸は今、ヤマハ発動機（静岡県磐田市）の監督を務める。時間がある時は球場に駆けつけて試合を見つめる。

自宅に帰れば、親子で打撃を振り返ることもあるという。清宮は「うっとうしいと思うこともある。『ベースの上に来たら全部打っちまえよ』と言われたけど、『簡単に言い過ぎだろ』って」。一方で、父は憧れの存在でもある。清宮はチームの主将。「言葉と声で引っ張る父はかっこいいなあと思う」

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高校野球ファン、関係者の視線が注がれる中、清宮の最後の夏が始まる。

甲子園でのあの一打以来、追い込まれた状況でも野球を楽しみ、歓声と期待を力に変えていった。「調子がいいと打てない気がしない」。早稲田実の環境もあった。「１年の時から伸び伸びやらせてもらえた。上級生にも恵まれ、自分の人生を変えた」

今、一番プレッシャーがかかることを尋ねてみた。少し悩んで、ぼそっと答えた。「開会式の選手宣誓はプレッシャーですね」＝敬称略