10周年を記念した「ブラバン!甲子園V」のCDジャケット(提供)
高校野球の吹奏楽応援にスポットを当てたCD「ブラバン!甲子園」が第1弾の発売から10周年を迎えた。野球の応援演奏を「聴く」楽しみを生み出したCDはシリーズになり、14作目となる10周年記念版「ブラバン!甲子園V」が、26日に発売される。
【動画】CD「ブラバン!甲子園」シリーズの最新作「ブラバン!甲子園V」の録音の様子=山下弘展撮影
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「高校野球シーズンになると、ラジオから聞こえる演奏に高揚するんです。僕自身が、そんなCDを聴きたかった」。ブラバンシリーズを発想したPR会社経営の石角隆行さん(54)は振り返る。
2007年2月、ユニバーサルミュージックジャパンの企画会議に、かつて勤務していた縁で石角さんも出席していた。「案を出してと言われたとき、夏に読んだ新聞記事を思い出した」。2006年8月5日の朝日新聞にあった「強豪校発 応援曲も続々ヒット」の記事。強豪の応援曲が他校にまねをされて広がる、という内容だった。
人気の応援曲をまとめたらどうか。企画が通ると、開拓者ならではの苦労があった。「印象としてはよく聴くが、データがない。『2006 夏 天理』という具合に検索して調べた」と石角さん。「アフリカンシンフォニー」「狙いうち」「サウスポー」など人気曲が浮かび上がった。
次の壁は、著作権。オリジナル曲はもちろん、ポップスやクラシックを元にした応援曲だと作曲者がわかるが、原曲がはっきりせず、作曲者までたどり着けないものもあった。第1弾から制作を統括する末崎正展さん(54)は、智弁和歌山高の「ジョックロック」で苦労した。
智弁和歌山高に問い合わせると、ヤマハのキーボードに入っていたサンプル音源が元だという。「ヤマハに連絡すると、向こうも戸惑うわけです。サンプル音源の作曲者なんて社員の誰かでしょうけど、わからない」と末崎さん。結局、ヤマハに著作権を持ってもらうことで解決をみた。
第1弾は15万枚を売り上げ、第22回日本ゴールドディスク大賞の「クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤー」にも輝いた。そして今回の10周年記念版は、早稲田大の「コンバットマーチ」やPL学園高(大阪)の「ウィニング」などオリジナル曲や、映画「君の名は。」の挿入歌だったRADWIMPSの「前前前世」など36曲で構成される。
5月4日、埼玉・新座市民会館であった録音は約10時間に及んだ。指揮を担当した、尚美学園大などで吹奏楽を指導する佐藤正人さん(57)は、秋田高の吹奏楽部出身。曲目のなかには、ライバルである秋田商高の定番応援曲「タイガーラグ」があった。「僕が高校3年のときは、秋田の決勝で負けた。この曲を聴いたなあ」と感慨に浸った。
演奏者も高校時代へ戻った。ホルンを吹いた赤羽聡美さん(23)は、日大藤沢高に通っていた。野球部は神奈川で屈指の強豪だ。「『アフリカンシンフォニー』が懐かしかった。高校のときはコンクールもあって、あまり球場には行けなかったから、久しぶりに球場で吹きたくなりました」
全国高校野球選手権大会の大会曲「栄冠は君に輝く」も曲目のなかにある。ポテトチップスのCMでの熱唱が注目を集めた、千葉県内の高校に通う鈴木瑛美子さん(18)が力強い歌声を響かせた。「甲子園って、高校生のもの。このCDに巡り合えて光栄」。かつての高校生から今の高校生まで、青春の熱気を詰め込んだCDになった。(山下弘展)